私的昭和史 桑原甲子雄写真集

この写真集、見始めると1時間くらいあっという間に過ぎます。

 

昭和10年頃の東京の街の写真です。ふらりと街を散歩しながら、その頃の東京の日常を切り取った写真。看板の文字や人々の服装をじっくり見ながら、子どもの頃、親に連れて行ってもらった東京の様子と重ね合わせて雰囲気を想像していると、自分が当時の街を歩いているような気分になってくる。

 

表紙の写真は昭和11年2月27日の午後の馬場先門あたりの写真。つまり二・二六事件の翌日。著者が和服の袖にカメラを隠しながらこっそり撮影したそうだ。その日の霞ヶ関や日比谷の写真が他にも何枚かあって、警視庁の玄関前には反乱軍の兵士の姿も写っている。戒厳令下のものすごく緊迫した中での写真で身構えた。しかし、他にも歩いている人がたくさん写っているので、戒厳令下といっても普通の人にとっては案外のんびりしていたのかもしれない。

 

196ページの薬屋の店先の写真も強烈。「強力毛生剤」、「南京虫全滅液」、「わきが」、「最新リン病治療薬」、「タバコがホントにキライになる新剤」、「性具 衛生サック」、「諸毒下し体質改善」、「皮膚病大妙薬」などなど、えらく直接的な表現の看板で店先が埋め尽くされている。

 

秋葉原にあった青物市場や、完成したばかりでピカピカの築地市場の写真もある。

 

とにかく、一枚一枚じっくり見ていると楽しくて時間を忘れる。下巻は戦前の満州と戦後の東京。こちらも是非見たい。

 

私的昭和史 桑原甲子雄写真集 上巻 東京戦前篇

 

私的昭和史 桑原甲子雄写真集 下巻 満州紀行 東京戦後篇

シーカヤック

息子と二人でシーカヤックに行ってきた。「カヌーあいらんど」の1日ツアーを7月に予約していたのだが、大雨と雷で中止になったので、一ヶ月後に仕切り直しで参加したのだ。

 

カヌーあいらんど:http://www.dab.hi-ho.ne.jp/canoe-island/

 

しかし、今回も朝から怪しげな天気。日本海に雷雲が次々と湧いている。明け方まで能登方面は雨が降っていた。ただ、午後にかけて徐々に回復するようだったので、7時に家を出て、とりあえず集合場所の和倉温泉に向かう。

 

8時半に到着。今回の参加者は我々の他に金沢からの男性が一人の計3人。やはり雷の可能性があるので、当初予定していた能登金剛周辺でのツアーを中止して、七尾湾を中島町小牧からツインブリッジまでの往復するコースにするとのこと。

 

コンビニで水とお弁当を買って車で出発地点の海岸に向かう。3人とも何回かシーカヤックに乗ったことはあるので、準備をしてすぐに海に漕ぎ出す。内湾の静かな海をスイスイ進む。途中スコールのような雨に何回か降られたが、体が冷やされて気持ちいい。

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突然の雷を警戒してできるだけ岸に沿って進む。岸沿いを進む。1時間ほどでツインブリッジの下に到着。

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ツインブリッジの能登島側にある小さな島を一周してみたり、

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能登島に上陸してお昼を食べたり、泳いだりしてのんびり過ごした後、同じ経路を引き返す。

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途中にある牡蠣棚の近くで、大量のクラゲを発見。海の中でクラゲが湧いている。これから秋にかけて、もっとクラゲが増えるとのこと。防水仕様の「写ルンです」を海に突っ込んで撮影してみた。

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14時30分くらいに出発地点に到着して解散。「なかじま猿田彦温泉いやしの湯」に入ってスッキリしてから帰りました。

 

 

 

岩波講座 日本歴史 第6巻 第7巻

第6巻は院政期から治承・寿永の乱鎌倉幕府の成立あたり。第7巻は鎌倉時代建武の新政を扱う。治承・寿永の乱というのは源平の戦いのこと。最近はこういうらしい。

 

律令体制が確立したのち、権力の中心は、天皇家から、摂関家、院、武家政権へ移行する。武家政権の中でも、平家から鎌倉幕府へ入れ替わる。鎌倉幕府内でも源氏の将軍は頼朝から実朝までの三代と途絶えてしまい、その後は京都の公家を将軍として迎え入れ、北条氏が実験を握る。天皇家皇位継承を巡って南朝北朝に分裂する。さらに、有力寺社は全国に荘園を確保し隠然たる勢力を誇る。

 

西暦でいうと900年ごろから1300年ころまでの400年間、室町時代までいれると1500年までの600年間。権力の中心は常に空洞化、分裂に向かう。不思議なのはその間にだれも、天皇家に代わる存在になろうとしないこと。北条氏は執権として権力を握りながらも、天皇、将軍を制度としてそのまま残している。

 

律令体制が崩壊し、公家、武家、寺社が並び立ち、それぞれが地域ごとにさらに細分化して支配する。そして戦国時代を経て、徳川家が全国統一を完成させる。というのがざっくりとした、古代から中世のイメージ。様々な勢力が並立する中で、中世の人々にとって支配者とはどんな存在だったのだろうか。当時の時代の気分、感覚を知りたいと思った。

中世1 (岩波講座 日本歴史 第6巻)

中世2 (岩波講座 日本歴史 第7巻)

オープンイノベーションの教科書 社外の技術でビジネスを作る実践ステップ

オープンイノベーションというのは、企業が技術開発する際に全てを自前で開発するのでなく、他の企業やいい技術を持っているのであれば、その技術を取り入れて、より良い製品をより短期間で開発する手法のこと。

 

技術を求める立場、技術を提供する立場に分けて、オープンイノベーションを実践するにあたって注意すべき点をまとめ、それぞれの具体例を挙げている。タイトルの通り教科書として全貌を知ることができるいい本だと思う。

 

実践例として登場する、東レや味の素、デンソーなどかなりの大企業でも、真剣に外部の技術を求めていることがわかった。ただ、彼らが求めているのは、世界でベストの技術。中小企業がそう簡単に食い込める世界ではないけれど、いいものさえあれば絡みようがあるのだ。

オープン・イノベーションの教科書――社外の技術でビジネスをつくる実践ステップ

9プリンシプルズ 加速する未来で勝ち残るために

世の中がどう変化していくかわからず、しかも変化のスピードがどんどん速くなっていく中で、どうすれば生き残っていけるのか。生き残るための原理原則を伊藤穰一が語る。

 

先行きは不透明なので、何が正解かは誰もわからない。つまり、どうすればいいかをあらかじめ分かっている人はいないのだから、既存の知識体系や既存の組織の権威に従順に従っても仕方ない。多様性を大事に、リスクをとっていろんなことを小さく実践してみる。というようなことが、著者が所長を務めるMITメディアラボの実践例を紹介しながら書いてある。

 

目次では、

1 権威より創発

2 プッシュよりプル

3 地図よりコンパス

4 安全よりリスク

5 従うより不服従

6 理論より実践

7 能力より多様性

8 強さより回復力

9 モノよりシステム

 

と続く。

 

グーグルの共同創設者ラリー・ペイジの言葉

ほとんどの企業がだんだん劣化するのはかれらが以前にやったのとだいたい同じことを、マイナーチェンジしただけで続けようとするからだ。絶対に失敗しないとわかっていることをやりたがるのは自然なことだ。でも漸進的な改善は、やがて陳腐化する。これは特に、確実に漸進的でない変化が起こるとわかっている技術分野ではそうだ。

 

人口減少という漸進的でない変化が起こり始めている中、社会のあらゆる分野で、答えのない問いに立ち向かわなければいけない。つべこべ言ってる暇があれば、何かやってみなければ。

 

9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために

ニューヨーク

娘がニューヨークでの2週間の語学研修から無事に帰ってきた。

 

学校以外の場での行事には、友達が一緒じゃないので参加したくないと言い続けていた娘が、今回は珍しく自分から行きたいと言い出したので費用はかなりかかったけれどこの機会を逃すまいと参加させた。中学生と高校生が対象で、アメリカの大学の寮に入って英語を学ぶコースだ。同行した15人の参加者のうち、中学生は二人だけだった。その分高校生や添乗員の人に優しくしてもらい楽しく過ごしたようだ。フランス人やイタリア人などいろんな国の人と一緒だったそうだが、特に中国人が多かったとのこと。勢いのある国はやはり違う。

 

午前中は勉強、午後はスポーツやダンス。休みの日にはニュヨークの街にも連れて行ってもらったとのこと。国連本部にも行ったらしい。

 

英語が上達したかどうかは置いといて、彼女が帰ってきて一番変わったと思ったのは、何かしてもらったときに「ありがとう」と自然に言えるようになったことだ。他人の釜の飯を食う経験をして、家族や友達のありがたさを少しはわかるようになっただけでも参加させた甲斐があった。

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スムージー

今年も玄関先に植えてあるブルーベリーの実が色づき始めた。これからしばらくは毎朝食べ頃の実を摘むことが日課になる。摘みたてのブルーベリーを朝食に食べられるのは嬉しいが結構な量の収穫になるのでジャムにしたり冷凍したりする。

 

そう言えば、去年採れたのが冷凍庫に入ったままだ。同じように冷凍したままの苺とバナナと一緒にミキサーに放り込んで、牛乳を少し入れてスムージー風なものをこしらえてみた。

 

スムージーと言うか溶けかけたアイスクリーム。スプーンですくってバクバク食べた。

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マネー・ボール 完全版

メジャーリーグオークランドアスレチックスのゼネラルマネージャーが、どうやって、乏しいお金でプレーオフに出場できるような強いチームを作ったかというお話。

 

まず、野球というのは、できるだけアウトを取られずに攻撃し続けることを目指すゲームだと考える。アウトを取られなければ永遠に攻撃し続けられる。アウトを取られないかを競うゲームなので、送りバントはアウトカウントの無駄遣いだし、盗塁もリスクが高い。どちらもアスレチックスでは禁止だ。

 

打者に求められるのは、とにかく出塁率。次に長打力。過去の膨大なデータから、選手全員の出塁率長打率をもとにシーズン中のチームの得点を予測する数式作り上げる。これを使って、チームの成績を予想するとともに、トレードでどんな選手を獲るか検討するのだ。

 

何しろお金がないので人気のあるスター選手を獲得できない。ピークを過ぎたけれどしぶとく四球を選んで出塁できるかつてのスター選手や、出塁率は高いけれど、怪我や太り過ぎなど、どこかに傷のあるマイナーリーグの選手を安く獲得する。ドラフトでは高校生のスター選手は成功する確率が明らかに低いので見向きもしない。大学リーグの成績を見て出塁率の高い選手を選ぶ。

 

投手の成績を評価するときに、勝利投手、セーブポイントておかしいと思ったことないですか。本人の実力指標というよりも、チームの状況次第でどうにでもなる数字じゃないかと。アスレチックスでは、投手の実力そのものをはかるときには、与える四死球の少なさ、たくさん三振がとれるか、ホームランを打たれにくいか、を重視する。

 

データを解析し、野球界の認識の歪みをついて、いい選手を安く獲得し、それほどでもない選手を高く放出する。トレーダーが金融商品を扱うように選手を売買する。

 

書いてある内容自体が面白い上に、語り方もうまい。読ませる。 それほど野球に興味ない人にもオススメです。

 

マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

Monterey Jazz Festival in Noto

七尾のモントレージャズフェスティバルに行ってきた。

 

11時50分発の臨時列車「モントレージャズ号」で金沢駅を出発。車内でジャズの生演奏もあり気分が盛り上がる。

 

13時30分頃、七尾駅に到着。会場の七尾マリンパークまで10分ほど歩く。天気予報では曇りで涼しいかと思いきや青空が広がり日差しがきつい。食彩市場の向かいにある山藤屋という食堂でチャーシューメンを食べて腹ごしらえ。

 

14時30分開演。日差しが強くて干物になりそうなので、ビール片手に会場後方の木陰に避難。地べたに座って木にもたれてビール飲みながら音楽を聴き、時々読書、時々昼寝。海からの風が心地よい。

 

17時30分を過ぎ日差しが優しくなる。遊穂のワンカップと焼き鳥を持って椅子席へ移動。夕焼けに赤く染まった流れ行く雲をバックに佐藤竹善さんがうたう。

 

19時30分からオルケスタ・デ・ラルスのステージ。最後は一人でへらへら笑っちゃうくらい楽しかった。

 

七尾駅21時20分発の電車で金沢に帰る。

 

音楽を聴きながら海風に吹かれて酔っ払う。気持ちいい1日でした。

すごい物理学講義

一般相対性理論量子力学を統一して説明する重力量子理論の一つである「ループ量子重力理論」を解説する。空っぽの空間があり、その中で素粒子が動いているのではなく、空間自体が粒状になっているという考え方。粒状ということは空間にも、原子のようにこれ以上分割できない最小の単位があるということ、つまり無限に小さく分割できないということだ。

 

重力量子理論としては、すべての素粒子はひも状の何かが振動しているものであるという「超ひも理論」が有名だが、「ループ量子重力理論」はそれに対抗する理論だそうだ。

 

この本が面白いのは、最先端の物理理論を説明するために、まずは古代ギリシャアキレスと亀パラドックスや哲学者デモクリトスの原子論から説き起し、コペルニクスガリレオニュートンアインシュタインらの世界の見方の根本をざっくりと説明している事。さらにダビデルクレティウスの詩がいかに現代物理学の世界観に近かったかを、彼らの作品を縦横無尽に引用しながら説いていく。

 

優れた物理学者も詩人も同じように世界の成り立ちの兆候を掴む。物理学者はそれを数学という言葉で表現し実験で証拠を掴む。こうして証明されるかりそめの理論も、いつかは、さらに包括的な理論に乗り越えられる。

 

素人にも楽しんで読めるいい本だ。ただ、タイトルを見ただけでは内容の素晴らしさが伝わらないのが残念。

 

 

すごい物理学講義

ライト兄弟

今さらライト兄弟の伝記なんて、と思ったがアメリカでベストセラーになったというので読んでみた。今まで知らなかったことや意外なことがたくさんあって面白かった。

 

  • ライト兄弟は、1899年から飛行機の研究を始め、1900年から1902年にかけての3年間は飛行機を操作する仕組みを作り出し、動力が付いていないグライダーで実際に滑空テストを入念に行い、操作方法を身につけている。
  • 飛行機の翼の上面のカーブやプロペラの形は、自宅の工房に風洞を作り模型を使ってテストしている。
  • 当時、飛行機についての知見が集まっていたスミソニアン協会から文献を取り寄せて最新の情報に基づいて飛行機を設計している。
  • 動力飛行に初めて成功したのは1903年12月17日。ほんの40メートル足らずの距離しか飛んでいない。その日の最長飛行でも260メートル程度。私が知っているのはここまで。その後もライト兄弟はアメリカやヨーロッパで何度もデモ飛行を行い、最終的にはフライヤーⅢ号で1時間半を超える時間、高度800メートルで飛んでいる。兄のウイルバーは、ニューヨークでハドソン川沿いに飛んで自由の女神の周りを旋回している。

 

小さな街の自転車屋さんが、思いつきで飛行機に取り組んでたまたま成功したくらいに思っていたけれど、よく考えてみれば当時の自転車は最先端の工業製品。最新の情報もちゃんと取り寄せて、模型を使って実験もやって、グライダーで何度も滑空練習して空中での飛行機の操作方法も身につけてから動力飛行に挑戦している。

 

やるべきことをきちんとやって、成功すべくして成功したのだ。

ライト兄弟: イノベーション・マインドの力

マンチェスター・バイ・ザ・シー

この映画には悪人も登場しないし、ヒーローもいない。そこいらにいる普通の人たちが、巡り合わせでしくじってしまったり、神経質だったり、お酒を飲みすぎたりとそれぞれが何かしらの困難を抱えている。

 

そんな困難は一気に解決することもなく、心の奥底に押し込んだり、ぶちまけたりしながら、なんとか折り合いをつけて1日1日を暮らしていく。つらいことを抱えてぱっとしない毎日が続く。でも、時々はちょっといいことがあったり、クスッと笑える出来事もあることもちゃんと描かれる。

 

舞台となった、マサチューセッツ州マンチェスター・バイ・ザ・シーは海辺の小さな町。冬は灰色の雲に覆われて重苦しい天気が続く。でも、時々は息を飲むような美しい景色を見せてくれる。そんな映画、おすすめです。

 

www.manchesterbythesea.jp

 

 

薔薇の名前

舞台は1300年頃のイタリアのとある修道院。そこで修道士が殺される。院長はフランチェスコ会の修道士ウィリアムを招き事件の調査を依頼する。ウイリアムと彼の弟子アドソは修道院内で調査を始めるが、その中でも次々と修道士が殺されていく。事件の鍵は古今東西の本を収蔵する文書館。

 

 馴染みが薄い中世のキリスト教修道院の話で、400ページの大部が上下2巻と読むのに苦労するかと思いきや、小説の世界にグイグイ引き込まれる。

 

中世への興味を掻き立てられる本です。 

薔薇の名前〈上〉

薔薇の名前〈下〉

私の実家は海のすぐ近くにある。

 

歩いて3分で海岸に着く。夏になると、家で水着に着替えて浮き輪を腰にセットして海まで歩いた。午前中から泳ぎ始めると、昼頃に母がおむすびとスイカを持ってきてくれる。それを食べて夕方まで泳ぐ。

 

昼間は暑いので、夕方、日が傾いた頃から泳ぐこともあった。5時過ぎくらいにやおら海岸に行ってしばらく泳ぐ。海にプカプカと浮かびながら日本海に沈んでいく真っ赤な夕日を眺める。太陽から自分に向かって一本の光の道ができる。日が沈んだ後に空が一瞬真っ赤に染まり、藍色から黒へゆっくりと変わっていき、星が瞬き始める。そんな景色を眺めながらおむすびと重箱に詰めたおかずの晩御飯を食べる。その頃には心地よい風が陸から沖に向かって吹き始める。風があるので蚊に刺されることもない。

阿含経典 3

増谷文雄が阿含経典の中から重要なものや、釈尊の言葉をよく伝えている文章をを選んで解説し現代語訳したもの。中部経典と長部経典、釈尊の入滅を扱う。

 

中部経典の一夜賢者経から、

過ぎ去れるを追うことなかれ

いまだ来らざるを念うことなかれ

過去、そはすでに捨てられたり

未来、そはいまだ到らざるなり

されば、ただ現在するところのものを

そのところにおいてよく観察すべし

揺るぐことなく、動ずることなく

そを見きわめ、そを実践すべし

ただ今日まさに作すべきことを熱心になせ

たれか明日死のあることを知らんや

誠に、かの死の大軍と

逢わずというは、あることなし

よくかくのごとく見きわめたるものは

心をこめ、昼夜おこなることなく実践せん

かくのごときを、一夜賢者といい

また、心しずまれるものというなり

 

入滅の際の、釈尊の最後の言葉

諸法は壊法である。放逸なることなくして精進せよ。

 

大事なところを選んでいるので、口伝えで受け継がれてきた文章独特のしつこいくらいの繰り返しの部分が省かれている。元々の経典のリズムを感じられないけれど手っ取り早く理解するにわかりやすい。

 

原始仏典を一通り読んで感じるのは、釈尊の教えは全然古びていないということ。心穏やかに過ごすためにどうすればいいのか、その実践方法は今でも十分に通用する。

阿含経典〈3〉中量の経典群/長量の経典群/大いなる死/五百人の結集 (ちくま学芸文庫)