ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界

ハーメルンの笛吹き男」の伝説の起源と、生成の過程を、中世の庶民の暮らしの様子から説き起こした本。阿部謹也さんの中世社会史関係の研究のきっかけになった本です。


都市に住む、職人などの庶民の暮らし、女性や子供が置かれた現在とは全く違う厳しい状況。中世の庶民にとっての、毎日の暮らしと、祭りの位置づけ。笛吹き男や、放浪楽士、乞食、放浪学生など、定住しない人々が社会でどのように差別されていたかに触れ、当時の人々がどんな気持ちで生きていたのかに迫ります。


教会や、王侯の年代記を読んでいるだけでは、決してわからない社会の様子が生き生きと描かれます。現代の自分が生活する世の中の人間関係や、生活の気分を過去に投影して、歴史を解釈してしまいがちになるのを戒めてくれます。


先週、新聞で、阿部謹也さんが亡くなられたとの記事見て、本棚の置くから引っ張り出してきました。学生のころ買っていたのですが、冒頭の教会の支配関係や、ハーメルンの町の説明の部分で退屈になって最後まで読んでいませんでした。当時は、中世の社会史に興味をもって、阿部謹也氏や、網野善彦氏、宮本常一氏の本を片っ端からよんでいた時期がありました。高校までに習った、教科書の歴史とは全然違う歴史に、非常に興奮した覚えがあります。


子供のころは、大きなお寺にお参りに行くと、傷痍軍人さんがいて、恐い思いをした記憶がありますが、最近はそういうのはあまり見ないです。社会全体が豊かになったこともあるのでしょうが、死とか闇の世界を社会の表面から覆い隠してしまって、建前上ないことにしているだけのような気もします。

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)