貧乏サヴァラン

森鴎外の長女、森茉莉さんのエッセイ集。森鴎外につられて本屋でつまむ。1903年生まれで1987年に亡くなられようたようです。戦前に結婚したものの離婚し、戦後はずっとひとり暮らし、著作権の期限がきて印税が入らなくなってからは、一時経済的に相当苦労していたようです。須賀敦子さんもそうだけど戦前の豊かな時代を知っている女の人の書くものは面白い。昭和のはじめって、戦争に向かって一直線に進む暗い時代というイメージが私にはあったのですが、どうもそうではないような気がします。大正から昭和のはじめを一度詳しく調べてみたい。以下面白かった箇所の抜書き。

贅沢な奥さんは、自分のもっている一番いい着物で銀座や芝居、旅行なぞには行かない。他の女の着物を見て卑しい眼つきなんかはしない。銀座を歩くと言うのはいわば散歩である。近所の散歩の延長である。それにお招ばれの時のようななりで行く。それは「貧乏贅沢」である。

東京出身のいいお家柄の友人も昔言ってました。大学で地方出身者を見分けるのは簡単。雑誌から抜け出してきたようなおしゃれななりをしている人が地方から来た人。もともと東京の人は、一番冴えない地味な服着てるって。

私の父親は大変に変わったことをしていた。杏子を煮て、砂糖のかかったのを御飯の上にかけてたべるのである。又は葬式饅頭を羊かん位の厚さに切ってこれも御飯にのせ、煎茶をかけてたべた。

鴎外が饅頭茶漬けか。私は悪食ですがちょっと試す気になれません。

料理の時間でたった一度、そのへんな、匙で計る分量を言わなかった女がある。それは浦辺粂子である。彼女はいい料理人にちがいない。

浦辺粂子さん、おなつかしい。


渋江抽斎、堺事件:http://d.hatena.ne.jp/benton/20091103/p1

貧乏サヴァラン (ちくま文庫)

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