高橋是清 日本のケインズ その生涯と思想

 表紙の高橋是清の写真の表情がいいです。話し好きで誰とでも仲良くなる性格が現われています。高橋是清は自伝もあり、数多くの評伝も出版されているが、本書の特徴は、著者がアメリカ人であることと、高橋と海外の銀行家とのあいだで交わされた英文の手紙を読み込んで新たなエピソードを掘り起こしたことでしょうか。


高橋是清の功績といえば、日露戦争の時に財務官としてイギリスにわたり、国債を発行、欧米から戦費を調達したこと挙げられます。私も初めて知ったのですが、日露戦争の戦費の47%は海外で発行した国債で調達。しかも1/4はユダヤ系アメリカ人とその友人が出資しています。誰もが日本が勝つはずがないとないと思っていたなかで、不利な条件ながらも、英語と人脈を駆使してなんとか国債発行を取りまとめ、その後5回もの戦費調達交渉をまとめています。あのロスチャイルド家とも交渉、資金を引き出しています。


自分が戦費調達で苦労したからなのか、英米中心の枠組みのなかで日本はうまく立ち回って、自国の経済発展を目指すべきであって、英米に戦争を挑んでも勝てるはずがないことを主張しますが、1936年に二二六事件で軍部に暗殺されます。高橋亡き後、軍の暴走を止めるものは誰一人いなくなります。


高橋是清のもう一つの功績は、1931年以降の高橋財政政策。世界に先駆けて、通貨切り下げと積極的な政府支出で総需要を呼び起こし景気を回復、世界で最も早く日本経済を大恐慌から立ち直らせたことです。
1929年の雑誌の記事では、

仮にある人が待合へ行って、芸者を招んだり、ぜいたくな料理を食べたりして二千円を消費したとする。これは風紀道徳の上からいえば、そうした使い方をしてもらいたくは無いけれども、仮に使ったとして、この使われた金はどういう風にちらばって行くかというのに、料理代となった部分は料理人等の給料の一部分となり、又料理に使われた魚類、肉類、野菜類、調味品等の代価及びそれ等の運搬費並びに商人の稼ぎ料として支払われる。この分は、すなわちそれだけ、農業者、漁業者その他の生産業者の懐を潤すものである。しかして、これらの代金を受け取りたる農業者や漁業者、商人等は、それを持って各自の衣食住その他の費用に充てる。それから芸者代として支払われた金は、その一部は芸者の手に渡って、食料、納税、化粧品、その他の代償として支出せられる。すなわち今この人が待合へ行くことを止めて、二千円を節約したとすれば、この人個人にとりては二千円の節約が出来、銀行の預金が増えるであろうが、その金の効果は二千円を出でない。
 以上は、もとより極端な例を挙げたに過ぎない。かく言えばとて、わたしが待合行きを奨励する次第では決してない。ただ私がここに待合の例証を取ったのは、世に最も浪費なりと称せられている、この待合遊びについてさえも、これを個人経済から見る時と、国の経済から見る時とは、大変な相違ある事を明らかにしたまでである。

と、財政政策の効果について語っています。わかりやすい。


功績をたどるのも興味深いのですが、若い頃のエピソードがおもしろい。わずか10歳でアメリカに渡り、労働力として売られたり、日本に帰ってきて14歳で今の東大の英語の先生になったり、銀行に勤めるようになってからも南米で銀山を経営するハメになり大失敗したりと。波乱万丈です。どんな危機のときにも、「あいつは使えるヤツだ。」という評判が彼を引き上げることになります。


次は自伝を読んでみたい。

高橋是清 ―日本のケインズ その生涯と思想

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高橋是清自伝 (上巻) (中公文庫)

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高橋是清自伝 (下巻) (中公文庫)

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