私と20世紀クロニクル

ドナルド・キーンといえば、父が定期購読していた中央公論の巻頭にあったエッセイを思い出します。中学生頃のことです。他の記事は長文で難しくてよくわからないので、居間に転がっていた中央公論を開いてそこだけ読んでいました。今となればどんな内容だったのか覚えていませんが、何か惹かれるものがあったのでしょうか、毎回読んでいました。


ドナルド・キーンは、1922年、ニューヨーク生まれ。大学で日本語を学び、第2次世界大戦中は海軍で日本軍の文書や兵士の日記の翻訳をしていたそうです。戦後、京都大学大学院に留学しています。日本文学の研究者で著書に『日本文学の歴史』、『文楽』、『明治天皇』などがあります。


この本『私と20世紀クロニクル』は、読売新聞に3年にわたって連載された記事をまとめたもので、彼の自伝です。古きよき京都をなつかしむところが面白い。

当時の京都には自家用車が一台もなかったと思う。もちろんタクシーやオート三輪はあったが、交通量は少なかった。今でも覚えているが、二人の年配の婦人が河原町通りの真ん中ですれ違い、それぞれ丁寧に羽織を脱いでから、お辞儀を交わしている姿を見かけたものだった。今なら車がひっきりなしに走っていて、とてもこうした礼儀作法を守っている暇はない。
(中略)
もし現代生活の特徴の中から何か一つ発明前の状態に戻せるものなら、私は自動車を消し去りたいと思う。自動車が一台もなかったら、京都はどんなに素晴らしいだろう!ヴェニスで時を過ごしたことのある人なら、自動車のない都市の静けさがどれほど心の安らぎをもたらすかを知っている。耳に聞こえてくるのは、人々の足音だけなのだ。


谷崎潤一郎三島由紀夫吉田健一らとの交流についても語られています。吉田健一は完璧なイギリス英語を話し、大酒のみだったそうです。やっぱり

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