[本]つながり 社会的ネットワークの驚くべき力

肥満は伝染する。幸せな気分や、自殺したくなる気持ちも社会的ネットワークを通じて伝染する。著者は我々の行動がいかに社会的ネットワークの影響を受けているかを具体的な例をあげて示していく。


学校の中の友人のつながり、地域の人のつながり、職場のつながり。人は自分と直接つながりのある人(1次の隔たり)のことはよくわかっているし、直接の友人の行動の影響を受けていることはうすうす感じている。では、友人の友人(2次の隔たり)の影響は? 友人の友人の友人(3次の隔たり)の影響はどれくらい受けているだろうか?


この本は、人のつながり方と人々の行動(肥満や幸福度、性感染症の広がり方、禁煙の傾向、投票行動など)の関係を分析する。この分析の鍵は、どうやって集団のつながり全体知るかということだ。我々は直接のつながりは自分自身でわかっているが、その先のつながりについてはよくわかっていないもの。学校全体の交友関係をアンケートで聞いたり、メールのやり取りの頻度を調べたり、政治家であれば、議員提案の法案への共同署名の状況を調べ上げ、つながり具合を全体をインターネット回線のつながりを示す図のようなものにモデル化し、それと、例えば肥満度のデータを重ね合わせる。そうすると、肥満の塊(肥満クラスター)が現れるそうです。


肥満の人がいるとその集団の肥満に対する許容度が少しあがり、肥満の人とが増えるる、増えるとまた、仲間うちでの肥満の許容度が上がるる。というサイクルが続きき肥満クラスターができるのではないかと著者は言います。


以下抜書き。
ブロードウエイのミュージカルが成功する、しないは、製作者の社会的ネットワークに関係があるのではないかという分析。

ウッツイは、過去に仕事をしたことがない人たちのチームはうまくいかず、作品は失敗に終わる可能性がきわめて高いことを突き止めた。こうしたネットワークはつながりが不十分で人びとを結ぶ絆の大半が脆弱なものだった。反対に、全員がずっと一緒に仕事をしてきた人たちのグループもいいミュージカルを作れないことが多かった。こうしたグループは外部からの創造的なインプットに欠けていたため、最初に一緒に仕事をしたときのアイデアを焼きなおすだけになりがちだった。だが、この両者のあいだに、新しいメンバーの多様性と古い関係の安定性を結びつける最善のバランスが存在することを、ウッツイはまたしても突き止めた。スモールワールドの特性を最大限に示したネットワークが、最高の成功を収めていたのである。

長期政権の弊害もこんなところからくるのでしょうか。スモールワールドとは、平均的な経路が短いこと=ネットワーク内の目指す相手に少人数を経由してたどりつけること。と、推移性が高いこと=ある人の友人の大半は互いに友人であること。の2つの特徴を兼ね備えたネットワークのこと。


社会的ネットワークがあるおかげで、個人ではできないことも出来るようになることから、ネットワークを社会の財産と考えると、

ネットワークから生み出されるものは、誰か一人の所有物とはならない。ネットワーク上の全員のものなのだ。この意味で、社会的ネットワークは共有林ににている私たち全員がそこから利益を得る立場にあるが、同時に、ネットワークの健全性と生産性を維持するために協力しなければならない。要するに、社会的ネットワークは、個人、グループ、機関などによる手入れを必要とするのだ。

経済学では、独自の価値基準をもって合理的に損得を判断する個人と、利益最大化目指す企業を想定し、市場で全てが交換される世界を想定する。社会的ネットワークを通じてやりとりされるものの価値は考慮されない。これまでは、個人も企業も社会的ネットワークの恩恵を受けるだけで、ネットワーク維持のために何かするわけでなく、かといってあたらしいネットワークを創りだすわけでもない。過去のネットワークの遺産にただ乗りして食いつぶす傾向が強くなっている気がします。


いろいろと考えるきっかけになる本です。

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力

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合わせて読みたい、
ネットワークを通じた他者への影響という点で、

ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ新書juice)

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http://d.hatena.ne.jp/benton/20090722/p1
セイヴィング キャピタリズム

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