独酌余滴

タイトルに惹かれて、中身を見ずに買ってきた。


著者の多田富雄さんは世界的な免疫学の権威だそうです。ジンバブエやインド、ルーマニアなど世界各国で開催される学会に参加したときに体験談や、能についてのお話が何度もでてきます。著者は能に対する造詣が深く自らも新作能を著すほど。能については自分が全く知らないので、小鼓をいい音で鳴らすのがいかに難しいかというお話は面白かった。

打楽器のくせに、鼓は打てば音がでるというわけではない。二枚の皮を木製のくびれた胴の両端にあて、その間を麻の紐(調べ)で引っ張るように結ぶ。さらに横調べという紐でくくり、左手で調べを握り右肩にかけて右手で打つのだ、紐を握った手を開閉することによって高低の打音を打ちわけることができる。締めれば当然高い音である。通常は打つと同時に締めて開くので、打音は「ボオン」という複数の音階が合わさった音になる。
 などといくら理屈を言っても、「ポン」などという音が出るまでには何年もかかる。一生音がでない鼓打ちもいる。同じ楽器でも打つ人によって音が違う。本職は一人ひとりみんな違う音を持っているのだ。


それから、当然、お酒や食べ物の話も登場します。お金がない学生時代によく食べたという「エンジェル鍋」はうまそう。

もうひとつは手羽先鍋。これは同様に手羽先を煮込んだ上に、大ざっぱに切ったキャベツを山盛りにして煮る。煮上がったら、カラシ酢醤油でいただく。
 手羽先を天使の翼に見立てて、私はこれをエンジェル鍋と名付けた。百グラム四十円の天使の肘はまたたく間に若者の胃袋に消えていった。貧しかった若き日の思い出である。

その他、鶏皮を細かく刻んだものを二日間煮込んで作る鶏皮スープをどんぶり飯にかけて食べるのは是非試してみたい。

独酌余滴 (朝日文庫)

独酌余滴 (朝日文庫)