エネルギー論争の盲点 天然ガスと分散化が日本を救う

そもそもエネルギーとは何なのか。そもそも何故エネルギーについて議論することが重要なのか。など、エネルギーについて考えていくための土台から説き起こしているので、非常に参考になりました。

著者は現代文明を支える根幹は、莫大なエネルギーの投入を前提とした産業システムであるといいます。

大人口を支える莫大な量の食料生産には、化石燃料を中心とした莫大なエネルギー源を投入した水利・灌漑設備、農機具、機材、化学肥料、農薬などが不可欠であり、更に、その大量の農業しえ産物を都市まで輸送するには、これまた莫大なエネルギーを消費する船舶、港湾、鉄道、トラック、道路が必要だ。これらが機能しなければ、巨大な都市人口は、一日たりとも維持することはできないのである。

照明のスイッチをこまめに切って省エネに努めるといったことも大事だけれど、エネルギー問題というのは、そんなレベルの話でなく、これだけの人口を当面の間支えていくために、どうやってエネルギーを調達するかということをちゃんと考えるべきだといいます。


次に、文明を支えるエネルギー源としては、いろいろ問題はあるけれど石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料に勝るものはないそうです。原理的に言っても、化石燃料は、何億年にもわたって地球にふりそそいだ太陽エネルギーを生物が吸収し蓄積し、地下で凝縮されたストック、太陽エネルギーの缶詰のようなものであるため、非常に密度が高く、使いやすいエネルギーであるからです。一方、太陽光や風力は、その時々に太陽から降り注ぐフローのエネルギーであるため、密度が低く、安定しないので使いにくい。例えば効率の指標としては、利用するためのエネルギーを1単位投入したら、何倍のエネルギーを産出できるかという比率=「エネルギー産出/投入比率」があり、石油、天然ガスは100倍、石炭50倍、原子力と風力が約20倍、太陽光10倍になります。


何億年もの過去の蓄積を掘り出して使っているので、化石燃料は確かに効率はいいのですが、何億年分もの炭素燃やすと二酸化炭素が放出されるという問題があります。その点については、化石燃料のなかでも、天然ガス二酸化炭素排出量が少ない。石炭の55%程度なので、既存の石炭火力発電所を、天然ガス発電所に置き換えるだけでも、二酸化炭素排出量を大幅に削減することができる。埋蔵量については、岩石の間に染みこんでいる天然ガスシェールガス)の採掘も可能となり、数百年分はあるそうです。


エネルギーの安全保障、リスク分散といった観点からは、何か一つのエネルギーに頼るのではなく、エネルギーの多様化、分散化が大事であり、太陽光や風力は、主力にはならないとはいえ、多様化、分散化の観点からは重要。当面は天然ガスなどの化石燃料を主力にして、短期的には原子力も使いつつ、再生可能エネルギーで多様化を図り、なんとかやりすごしていくことを考えるべきだといいます。


輝かしい未来でもないけれど、かといって、絶望するほどでもなく、その間でなんとかやっていくというのが、やはり現実的なんでしょう。

エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)

エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)