世界の使い方

著者のニコラス・ブーヴィエがフィアット500(トッポリーノ)に乗って、ジュネーブを出発し、1年半かけてアフガニスタンパキスタン国境のカイバル峠まで旅をする。旧ユーゴスラビアからギリシャ、トルコを通って、イラン、アフガニスタンまで。


お金がなくなると現地の大きな街にしばらく滞在して、フランス語を教えたり、地元の新聞社に記事を売り込んで旅費をかせいで旅を続ける。おかげで、血で血を洗う激しい民族紛争のはるか昔、共産圏に組み込まれたばかりのユーゴスラビアの様子や、シャーが支配していた頃のイラン、ソ連に侵攻される前のアフガニスタンの様子がよくわかっておもしろい。その頃から、マケドニアでは、トルコ系のイスラム教徒が肩身の狭い思いをしていたり、イランでは、クルド人キリスト教徒が遠慮がちに暮らしていたようだ。


著者はアフガニスタン人の控えめな態度に好感を持つ

アフガニスタンの民謡によれば、迎えた客にどこから来たのかと訊き、「頭のてっぺんからつま先まで質問攻めにあわせる」人間ほど滑稽な者はいないという。西洋人を相手にするときも、アフガニスタン人の態度はまったく変わらない。(中略)
イギリス軍は二度にわたってアフガニスタンを打ち破り、カイバル峠を開かせ、カブールを占領した。そのイギリス軍を相手に、アフガニスタン人は二度にわたって強烈なしっぺ返しを食らわせ、元の状態に戻している。したがって雪ぐべき恥辱もなければ、追いはらうべき劣等感もない。外国人? フィランギ? 同じ人間だ。席を空けて、何か出してやろう。そして誰もが自分の用事に戻っていく。

その後、ソ連もアメリカも強烈なしっぺ返しを食らっている。

路地裏の湿っぽいドブのにおいや、カブールの街をおおいつくす羊肉の脂のにおい、握手した相手のぬるっとした汗ばんだ手の感触、など五感を刺激する描写がリアルなので、旅の気分に浸りたい人におすすめ。


実は著者は、カイバル峠の先も旅をつづけて、最終的には貨物船で日本まで来ている。そのときのようすは、「日本の原像を求めて」に詳しい。銭湯が好きだったようだ。
「日本の原像を求めて」 http://d.hatena.ne.jp/benton/20120317/p1

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