霧のむこうに住みたい

今年初めての雪に閉じ込められ、本棚から須賀敦子の「霧のむこうに住みたい」を取り出し、こたつでを読んだ。どんよりした曇り空だが今日は雪のおかげで明るい。部屋も本も白さが際立つ。

霧の深い日は、朝、目がさめたとき、窓の外の自動車の音が、いつもより鈍くなっているるで、床の中から、もうそれとわかる。ふしぎなことに、ミラノに長く住んでいると、この霧が親しい友人のように、なつかしく思えてくる。霧がたちこめるようになると、ミラノで、もっともはなやかで充実した季節がやってくるせいかもしれない。


夜の間に雪が積もった時も、街の音が雪に吸収されるのか、くもったように聞こえるので、寝床の中からでもそれとわかる。


「霧のむこうに住みたい」はイタリアに住んでいた頃の思い出のエッセイ29編をまとめたもの。イタリア暮らしの一場面を須賀さん独特のあっさりとした文章で描き出す。