1913 20世紀の夏の季節

 1913年の出来事を1月から12月までの各月ごとに追っていく。出来事といっても歴史的な大事件というわけでなく、カフカプルーストトーマス・マンマルセル・デュシャンピカソマティス、ココシュカなどの芸術家の身の上に起こったことが、断片的に並んでいる。時々、フロイトユングヒトラースターリン、フェルディナンド二世なども登場する。エピソードがまとまって語られる訳でなく、月ごとにそれぞれのエピソードの断片が脈絡なく登場するので非常にわかりづらい、わかりずらいのだけど数多くの断片をつらねることで1913年の時代の気分、雰囲気が伝わって来る。

 

スターリンは公園を歩きながら考え事をしている。すでに夕暮れが迫っている。そこに向こうから散歩をしている別の男がやってくる。二三歳の、画家になるのに失敗した男だ。美術学校に入学を断られ、いまではメルデマン通りの男性宿舎で時間をつぶすしかない。彼はスターリンと同じように、大きなチャンスを待っている。彼の名はアドルフ・ヒトラーという。この時代の彼らの知人たちは、彼らは二人ともシェーンブルン宮殿の散歩をするのが好きだったと語っているが、もしかするとこの二人はこの果てしなく続く公演の中を歩いていたときに、一度礼儀正しく挨拶を交わし、帽子を軽く持ち上げていたのかもしれない。

 

ピカソマティスとの仲が良かったとか、ルーブルから盗まれたモナリザが見つかったとか、最初から最後まで、ひとつひとつはあまり重要とも思えないゴシップの積み重ねだ。でもその積み重ねからなんとなく当時の人達の気分が伝わってくるような気がする。たくさんの画家、作家、音楽家、政治家の固有名詞が登場するが、半分以上は私が知らない人だ。ネットで人名を確認しながら読むとか、この本に登場する人達が書いた本も読むと面白そうだ。

 

1913: 20世紀の夏の季節

1913: 20世紀の夏の季節