新版 論理トレーニング
著者の野矢先生は哲学者で、本のタイトルも哲学教科書シリーズとなっているので、小難しいことが書いてあるのではないかと思うかもしれません。でも、内容は大変実践的で、論理的な文章を書くということを丁寧に解説してくれます。練習問題もたくさんついているので、普段、文章を書く機会が多い人、きちっとした論文を書いてみたい人には大変参考になる本です。
まず、文の論理構造をはっきりさせるために、接続詞の意味を意識して使いなさいと言います。文の接続関係には、
①解説:「すなはち」、「つまり」
②根拠:「なぜなら」、「というのも」
③付加:「そして」、「しかも」
④転換:「しかし」、「だが」
があり、最初はそれぞれの意味を意識しながらしつこいくらいに接続詞をつかって関係をはっきりさせる文章を書くべきだと言います。そのためには、「〜が、」という接続詞は付加でも転換の意味にでも便利になんとなく使えてしまうの避けるべきである、という部分に、なるほどと思いました。
つぎに、「かつ」と「または」、それぞれの否定、条件構造、演繹について解説します。その中で、対偶、逆、裏の関係が面白かった。「AならばB」が真であれば、その対偶の「BでないならばAでない」は真である。しかし「BならばA」(逆)や「AでないならばBでない」(裏)は演繹として正しくない。ここで例題
中華料理屋「上海亭」について次の(a)が分っているとき、そこから正しく演繹できるものを下の①ー③から選べ。
午後10時を過ぎたならば、上海亭はやっていない。(a)
①上海亭がやっていないならば、午後10時を過ぎている。
②午後10時を過ぎていないならば、上海亭はやっている。
③上海亭がやっているならば、まだ午後10時ではない。
意識してか知らず知らずかは別として、普段の会話でも、逆や裏をつかって推論してしまうことがあるので気をつけないと。
最後に、実際に議論をつくっていくために必要なことことを解説します。その中で、異論を立てることと批判することの違いについて述べています。批判というのは、相手の主張の論証部分に対して反論することで、相手の主張自体を否定するものではない。それに対して、相手の主張と異なる主張を行うのを異論を立てるといいます。つまり、相手の主張に同意しながらも、そこに至る道筋がおかしいと指摘するの批判もありえるのです。
異論を立てたいのか批判したいのかを本人が意識していないために、何が言いたいのかよくわからない、とりあえず自分の言いたいことを言っているだけの議論になるというのは、会議でもよくある光景です。
たくさんの練習問題とその回答、丁寧な解説があるので、一人でじっくり勉強してみたい人は是非手に取ってみてください。