時間

吉田健一の、句読点が極端にすくないうねうねと長い文章が続いていく文体に馴れるまでは大変読みにくいのですが面白いです。


時間というのは、時計の針が進んで行くように、自分と関係なく過去から未来へ淡々と流れるのではない。自分の意識が変化を感じて行く過程が時間だ。意識とともに時間がある。だから、過去は過ぎ去ったものでなく、意識が過去を想起しているときは、そこが今だ。また、意識が感じる変化の過程が時間なので、時間の経過にともなって時間(変化)が累積される。夕日は、地平線から登ったばかりの朝日の輝き、全てを白く照らす昼間の明るい光という変化を経てみるから、夕日が夕日らしく見えるのだ。


というようなことが、延々と書いてあります。本当に読みづらいので読んでいると意識が遠のいて、半分寝ているような気分になり、時々、あっと思うようなフレーズに出会い目が覚めます。そんな朦朧とした読書が楽しめる方におすすめです。

時間がなくなることを精神の面から考えるならばそれが精神の消滅も伴うものであるのは殆ど自明のことである。その精神の本質は不断に活動することにあって時間があって刻々の変化が生じる時にその余地がなくてこれは精神の場合はそのままその死である他ない。寧ろ時間があっての生命が呈するその一つの面、或はその生命が意識される限りの面が精神なのでそこには時間があって精神が働くという関係が認められるのであるよりも時間の刻々の経過を意識することから精神がその形を取ると言った親近が時間と精神を結び付けて更に又その時間の意識が底流をなさない精神の営みは妄想に類するものと断定することが出来る。我々は何か考えている時にそれとともにたって行くものを意識する。それがあって考えが進みもすれば行き悩みもするので或ることが或る他のことと結び付くのもそれがどこで結び付くのか探しあぐねるのもこれを刻々の現在の形で意識するその意識が時間の経過、時間そのものである。


時間 (講談社文芸文庫)

時間 (講談社文芸文庫)