大磯随想

昭和58年に東京白川書院出版の吉田茂の随筆などを集めた本。吉田茂の書いた文章を集めた「大磯随想」、吉田茂の対談を集めた「遠来蛙鳴」、長男の吉田健一との対談をまとめた「大磯清談」の3部構成となっている。


大磯随想の中にある、サンフランシスコ講和会議に全権大使として出席ときのことを書いた文章は、国舵取りをまかされた人の緊張感が伝わってくる。一方、大磯清談は親子の打ち解けた会話の雰囲気が伝わってくる。吉田茂が、アメリカ人の子供から人形を送ってほしいと手紙をもらって、三越に買いにいったら店員に、人形の他にいろんなものを勧められて家具まで買うはめになった話は面白い。


他、印象に残ったところを挙げると、

吉田が首相に就任した際に、敗戦国として「負けっぷりが良くなければいかん。」というアドバイスを鈴木貫太郎から受けたそうだ。吉田はそれに従ってGHQとの折衝にあたっては、どうしても譲れないところははっきりとノーと言うけれど、それ以外の細かいことは、基本的にGHQの指示を受け入れるようにし、不都合なことがあれば占領が終了した後で修正すればいいと考えていたようだ。


日米安保体制について
軍隊を維持する経済力もないのに日本が単独で再軍備して防衛体制を整えようというのも、まったく防衛力を持たず丸腰でいるというのも、両方とも非現実的。イギリスやドイツでさえ国内にアメリカ軍の基地を置かせて共同で防衛体制を整えているのだから、日本もアメリカと組むべきだ。


中国との関係について
貿易相手国となることを期待して中国にすり寄るべきでない。中国との貿易は戦前でさえ全体の20%程度しかなかった。戦後は共産国となり経済的には期待できない。それよりも、東南アジアの経済発展を支援して、資源の輸入、製品の輸出先として関係を深めるべきだ。


外交センス
ロンドンにソ連の代表が訪問するときも、対立する国の代表であったとしてもイギリス人は決して彼らに無礼なことはしない。もし、仮に無礼なことをする人がいると、そのような行動を新聞が批判する。「なぜ国賓に対して、そのような無礼なことをするのか、かりに反対であっても、それはデイグニファイド・サイレンス(毅然たる沈黙)をもって迎えなければならない、それを軽々しく、言葉でもっていうのはバカなヤツだ、と、そう、新聞は押さえている。」


今と世界の情勢は違うけど、言ってることは古くなっていない。特に、はやりの合い言葉に振り回される日本の世論の動きについての指摘は今も全然変わっていない。