昨日の世界(1)

シュテファン・ツヴァイクは、1881年にオーストリアに生まれたユダヤ系の作家。詩や戯曲、伝記などの作品を残しているが、1941年に亡命先のブラジルで自殺している。この本は自殺の直前に書かれており、ツヴァイクは19世紀までのヨーロッパ文明を懐かしみ、第一次世界大戦以降にそれが失われてゆく過程を嘆く。19世紀までオーストリア=ハンガリー帝国の下、なんとか折り合いをつけて暮らしていた諸民族が、国民国家のかけ声のもと分裂し血で血を洗うような戦いになったのか、20世紀初頭のヨーロッパの雰囲気、気分を知りたくて読んでみた。

 

(1)では、子ども時代からギムナジウム卒業しパリ、ロンドンでの遊学、第一次世界大戦の開始までを扱う。ツヴァイクによれば、19世紀は円熟、洗練、優雅さ、建前が尊ばれ、20世紀は、若さ、率直さ、激しさ、本音が重視されるようになる。そして進歩への期待、諸国民の融合への期待にあふれる時代だったという。1914年の7月にオーストリア皇太子夫妻が暗殺されたときにも、いざとなれば各国間でうまく問題を収めるはずで、まさかこの事件が世界大戦につながることになるとはツヴァイクの周りでは誰も考えていなかったそうだ。本人も開戦直前までベルギーのリゾート地で海水浴を楽しんでいる。

 

しかし、突然戦争が始まる。若者はクリスマスまでには帰ってこられるだろうとの見込みで、勇ましいところをみせようとこぞって戦地に向かう。

 

ウィーンでの学校生活の様子、パリやロンドンでの暮らし、リルケロダンとの交遊も交えながら描写する当時の世相にどっぷりと浸かれる本です。

 

昨日の世界〈1〉 (みすずライブラリー)

昨日の世界〈1〉 (みすずライブラリー)

 

 

 同時代のアメリカンの様子はこちらが面白いです。

オンリー・イエスタデイ―1920年代・アメリカ (ちくま文庫)

オンリー・イエスタデイ―1920年代・アメリカ (ちくま文庫)