失われてゆく、我々の内なる細菌

著者はまず、人間は自分の体の表面や消化管の内部などに100兆個もの細菌を保持していることを示す。ちなみに人間自身を構成する細胞の数はたったの30兆個だ。体内の全ての細菌の重さを合計すると数キログラムにもなるそうだ。それら細菌は数百万年をかけて人間と共存するように進化したものだ。しかし、この50年あまりにわたる抗生物質の使用により、このような体内常在細菌の種類が急激に減少している。著者は鼻炎やぜんそくなどのアレルギー疾患、細菌性腸炎、小児糖尿病、肥満、はては自閉症にまでそのことが影響しているのではないか。不要不急の抗生物質の使用は控えるべきだという。

 

オオカミがいなくなると鹿がふえて森が枯れてしまうという地上の生態系にも匹敵するような体内の細菌の生態系があるのだ。常在細菌が病原菌の繁殖を抑えているので、抗生物質によって常在細菌が一掃されてしますと、病原菌が猛烈に繁殖して腸炎になるケースもあるそうだ。

 

特に幼児期に抗生物質にさらされると影響が大きく、喘息や小児糖尿病の発生と抗生物質の使用には正の相関関係があるそうだ。また、帝王切開が増えることで母親から菌を受け継ぐことができない子どもが増えていることも問題とのこと。

 

驚いたのは、牛や豚などの家畜に成長促進剤として薄めの濃度の抗生物質が与えられているということ。抗生物質が与えられると10%程度、肉の量が増えるそうだ。肉に残留した抗生物質が人間に取り込まれて影響を及ぼしている可能性があるそうだ。

 

20世紀の医療においてめざましい効果をあげた抗生物質。その負の側面に目を向けさせてくれる本です。食物アレルギー、花粉症に悩まされている方におすすめ。

失われてゆく、我々の内なる細菌

失われてゆく、我々の内なる細菌