セカンドハンドの時代 「赤い国」を生きた人々

 ベラルーシ出身のノーベル賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチがソビエト時代のことやソビエト崩壊後の暮らしのことを、市井の人々から聞き取ってまとめた本。インタビューの時期は1991年から2012年。

 

600ページが文字でびっしり埋め尽くされている。人々が話す内容は、1917年のロシア革命の頃、赤軍兵士として村の富農一族を皆殺しにしたこと、スターリンの時代に両親が政治犯として強制収用所に連れ去られ、親戚の間でたらい回しになりながら育ったこと。ナチスドイツとの戦いに兵士として参加したものの、捕虜になったばっかりに戦後に迫害された話。誰かの密告により逮捕され、仲の良いご近所さんに子供を託してシベリア送り、17年過ごして帰ってきたらソ連崩壊。過去の公文書を閲覧できるようになったので自分が逮捕された経緯を確かめに行ったら、子供を託していたご近所さんが密告していたことが判明した話。ソ連崩壊後のカフカス地方での民族紛争で家族を殺されたロシア人。難民となってモスクワに逃れてきたアルメニア人、アゼルバイジャン人。ゴルバチョフペレストロイカに希望を託したけれど、ソ連が崩壊して全てを失い文字通り路頭に迷う人々。アフガニスタン紛争から帰還したものの、精神的におかしくなって飲んだくれになってしまった兵士たち。

 

彼ら、父の世代は失望している。二重の敗北感をいだいているんです。共産主義思想そのものが破綻したこと、そして彼らは、そのあと起きたことが理解できず、受け入れることができないでいる。彼らが望んでいたのはべつのもの、もし資本主義なら、人間の顔をした、魅力的な笑顔の資本主義。いまの世界は彼らのじゃない。よそ者の世界。

 

幸せな話はほとんでない。ありとあらゆる不幸が綴られる。これでもかというくらい逮捕、拷問、虐殺の話が登場する。平凡な日常生活の裏にあって、何かのきっかけで噴出してくる暴力。

 

20世紀のロシアに特有のことだも思えない。アフリカ、中東、南米、ヨーロッパ、アメリカ。世界のどこであれ、何かあれば敵と味方を区別を前面に押し出して暴力が前面に出てくる。

 

この70年間の日本が幸運だったのかもしれない。

セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと

セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと