増補新版 イスラーム世界の論じ方

この本は、2004年から2016年にかけて著者が新聞や雑誌、学術誌などに発表してきた文章をまとめている。一般の読者向けにわかりやすく書いたものから、専門家向けの少し歯ごたえのあるものまで収められている。

 

著者が本書で何度も繰り返し言っているのは、

  • イスラム教徒であるということは、コーランを頂点とするイスラムの教えの通りに生活するということ。それは信仰上の生活だけでなく、何を食べるかなどの日常生活や、国をどのように統治するかを決める政治も入っている。つまり、政教分離という考えは、イスラム圏にはないのだ。
  • だから、政教分離を建前とする欧米諸国と、イスラム教国では根底から考え方が違うので、よく話し合えば共通点が見つかってお互いに理解し合えるという問題ではない。
  • フランスが公の場所でのヒジャブ(女性が身体を隠す布)の着用を禁止したのは、信仰は自由だがそれは内面的な生活に限ってのこと。社会生活において宗教的なものを誇示するようなことはすべきでない。という考えに基づいたこと。フランス社会の根本原則に従わない人は受け入れられないという姿勢を示している。
  • 日本でイスラムを語る人の中には、アメリカを批判したい気持ちが裏にあって、それを強調するためだけに、イスラム教国に肩入れする人が多い。ちゃんとイスラムのことをわかっている言説は非常に少ない。

イスラム世界について考えてみる際の入口としてぴったりの本です。

 

増補新版 イスラーム世界の論じ方