負債論 貨幣と暴力の5000年

 連休中にザクッと一通り読んだけれど、内容が盛りだくさんで受け止めきれていない。注釈や参考文献に目を通しながらもう一度じっくりと読みたい。

 

著者は人類学者。まず、経済学の教科書でよく出てくる貨幣の起源に関する物語をきっぱりと否定する。昔々、ある村に魚を持っていて米が欲しい人と、米を持っていて魚が欲しい人がいました。二人は出会って物々交換していましたが、もっと交換を便利にする為に貨幣を使うようになりましたとさ。という類の話だ。

 

そもそも、ミクロネシアの石のお金や中国の子安貝などの原始の貨幣は日用品のようなものを買う為に使われていたわけでない。結婚して妻を迎え入れたお礼として、あるいは、争い事で間違って人を殺してしまった場合の償いとして送るのだ。相手側の部族に迷惑をかけた補償として貨幣が送られるのだ。その貨幣が何か別の品物を買う為に使われることはない。人間がやり取りされる時に使われるだけだ。物を交換するときは、贈与またはツケ、つまり信用のやりとりで行なっていたという。

 

物の交換に貨幣が使われるようになるのは、国どうしの戦いが絶えず軍隊が幅を聞かせる時代。国は金属貨幣を鋳造し軍人への給料の支払いに使う。一方で国は税を金属貨幣で納めるように強制する。すると市中の農民、商工業者は、税金を納入するための貨幣を手に入れる為、軍人へ生活に必要なものを競って売りにくるようになる。こうして日常生活に貨幣が浸透する。また、戦争により捕虜となり奴隷となる兵士、女性、子供がたくさん出てくる。奴隷の価格を測る為にも貨幣が使われるようになる。

 

紀元前600年くらいまでが、信用取引の時代=金属貨幣があまり使われなかった時代。紀元前600年から600年ごろまで、ヨーロッパではギリシャ・ローマ文明の時代、中国では秦、漢、唐の時代。キリスト教イスラム教、仏教が生まれた時代は、戦乱が続き、貨幣が使われた時代。その後1400年の大航海時代まで、いわゆるヨーロッパの中世は貨幣の使用が下火になる。大航海時代から1971年のドルと金の兌換中止(ニクソンショック)までが再び金属貨幣の時代。そして今は貴金属による価値の裏付けがない不換紙幣=信用貨幣の時代なのだ。

 

これまでの歴史を通して、著者は国家による暴力、奴隷、金属貨幣の流通は常にセットで登場するという。物々交換を効率化する為に貨幣を発明したというのは経済学者が言いふらすおとぎ話にすぎないのだ。

負債論 貨幣と暴力の5000年

負債論 貨幣と暴力の5000年