台所太平記

 とある作家の家庭に奉公するお手伝いさんたちの生態を観察して時系列に語る、女中さん列伝。谷崎潤一郎が自分の体験も交えて書いたと思われる小説。

 

昭和11年ごろから30年ごろまで、時期によって多少の増減はあるが常に京都の家と熱海の家の両方で、それぞれ2、3人づつのお手伝いさんを雇っている。お初という鹿児島出身の女性を手始めに、主に彼女の伝手で次々の鹿児島から娘さんがやってくる。彼女たちが引き起こす騒動をユーモラスに語るお気楽な小説と思って読んでいると、同性愛のお手伝いさんが出て来たり、何かあるとすぐに嘔吐する癖がある人が出て来たりと、ドタバタを面白おかしく綴る体でありながら人間のわからなさを垣間見せる一面も。そもそも、いくらおかな持ちとはいえ、こんなにたくさん若い女性を雇い、お気に入りの人を連れて銀座に頻繁に出かけるこの家の主人や、奥さんもよくわからないところがある。

 

このわからなさ、不気味さは、女中という職業が身近でなくなり、女中を取り巻く一般的な常識が理解できなくなっているからなのか、谷崎があえてそういう風ことを感じさせるように書いているのだろうか。

台所太平記 (中公文庫)

台所太平記 (中公文庫)