トレイルズ

著者は、アメリカのアパラチア山脈に沿って南北に縦貫する全長3,500Kmの自然歩道、アパラチアントレイルをワンシーズンで踏破する。

 

アパラチアントレイルの踏破をきっかけに、著者は「トレイル」、「道」は、近代の人々にとってなんなのか考える。近代以前のネイティブアメリカンアボリジニにとっての道とはなんだったのか調べる。さらに、動物にとってのトレイル、獣道とは何か。アリや芋虫の通り道。古生物が移動することを始めた頃の、その通り道の化石をも調べる。

 

餌場や水場と自分の住処を結びつけるトレイルのネットワーク。それは、餌場や水場の場所の記憶を外在化したものであり、生きていく上で必要な情報処理システムだという。生き物が環境に働きかけてトレイルを作るとともに、生き物の行動は既存のトレイルによって規定される。

 

アリが、食べ物を見つけ出し、食べ物と巣の間の最短ルートを導き出す。そして、仲間の働き蟻全体に周知させる。それは、個別のアリが驚くほど単純なルールに従うことだけで、群れ全体の動きが最適化されるのだ。ゾウは、移動しやすいように木を踏み倒して、森を草原に変えてトレイルを作り、自分たちのトレイルの周りに餌になるような木のタネを撒いたりと環境を作り変えている。水場の記憶は代々受け継がれる。

 

トレイルという切り口ひとつで、これだけ面白い話を引き出せるとは。著者の広い見識に恐れ入りました。

トレイルズ (「道」と歩くことの哲学)

トレイルズ (「道」と歩くことの哲学)