文明の衝突

この本のもとになる論文が発表されたのが1993年、ソ連が崩壊して共産主義対資本主義のイデオロギーの対立が解消されて、資本主義、自由主義の西欧文明が世界中に広まり、平和な世界が訪れるのではないかという期待があった頃。その後の世界はどうなるのかという予測が書いてある。発表から25年経った今振り返ってみると、ほぼ、その予測どおり。怖いくらいだ。アメリカのトップ10大学の課題図書の4位になっているのももっともだ。何で今まで読んでなかったのだろう。

 

著者が言ってることをざっくりまとめると、こういうことだ。

 

冷戦が終わったことで、それまでイデオロギーの対立に覆い隠されていた、異なる文明の対立構造がむき出しになり、民族や文化、特に宗教を巡って紛争が起きる。特にアメリカとヨーロッパを含む西欧文明が、人口増加が著しいイスラム文明、経済発展により自信をつける中国文明から挑戦を受け、激しく対立するだろう。西欧に対抗するために、イスラムと中国の連携体制が構築されるであろう。

 

冷戦後に発生した、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、チェチェン紛争ナゴルノ・カラバフ戦争、アメリ同時多発テロイラク戦争スーダン内戦。これらは全て隣接する西欧やロシアなどの文明とイスラムとの紛争だ。

 

中国に関しては、台湾やマレーシア、シンガポールなど中国系住民が経済を取り仕切る国を含めて著しい経済発展を達成している。そして経済力を背景に、東南アジアでの領海拡張を着実に進めている。

 

そして、中国、イラン、パキスタンは軍事的に密接な関係を構築している。

 

最近でも、アメリカがイランに対して厳しい経済制裁を続けたり、中国製品に高い関税をかけたりするのは、トランプ大統領の世迷い言かと思っていたが、実はアメリカの権力中枢部が本気でイスラムと中国を押さえ込もうとする、慎重に練られた一連の動きなのかもしれない。と思った。

 

この本では、日本も日本単独でひとつの文明として位置付けられている。ソ連に対抗するために締結された日米安全保障条約は、当然役割を終えている。アメリカは中国に対抗するためにこの体制を利用するのか。それとも東アジアは中国に任せて一歩引くのか。日本はアメリカについていくのか。経済成長著しい中国に乗り換えるのか。それとも双方の国と距離を保つのか。著者は、過去を振り返ると日本は、その時々で一番国力のある国に追随する傾向があるので、長期的には日本は中国に乗り換えるだろうと予測している。

 

今更ながら、大学卒業後、経済や経営関係の本ばかり読んでいて、政治や世界情勢、外交についての本を全く読んでいないことに気づいて慄然とした。