暴力と不平等の人類史 戦争・革命・崩壊・疫病

 農業や牧畜が始まり、生きて行く上で必要最低限必要な物資を上回る生産が可能となって以来、定常状態では人々の間の経済的な不平等は拡大し続けている。例外的に不平等の格差が縮まったのは、次の4つのケースだと著者は言う。

  1. 国家あげての総動員体制での戦争が発生した時
  2. それまでの政治経済体制をひっくり返す革命がおこった時
  3. 天災や外敵の攻撃など何らかの理由によって既存の国家が崩壊した時
  4. 14世紀にヨーロッパや中東で人口の3割近くが死んだペストなどの疫病が発生した時

どれも、暴力などによって多くの人が死に、社会インフラが破壊され、人々が塗炭の苦しむを味わうようなことがないと、不平等は解消されないという、身も蓋もない結論。この結論を古代から20世紀に到るまでのの世界各地の数々の事例のデータをあげて検証する。

 

著者が「大圧縮」と読んでいる20世紀における大幅な不平等の解消は、自分の生活実感と照らし合わせ大変面白かった。国家総動員体制で戦われた二つの世界大戦と、ソ連をはじめとする共産革命によって、1945年から1980年頃までは世界中で貧富の格差が縮小した。

 

所得税の限界税率を90%にまで引き上げたり、懲罰的な水準にまで相続税の税率を引き上げたのは富裕層から戦費を調達するため。また医療保険、年金制度が整備されたのも徴兵制により戦争に駆り出される国民を納得させるためでもある。

 

共産主義革命が実現した国で、当然不平等はドラスチックに解消された。それに加えて、資本主義諸国においても、国民の不満をなだめ共産国への対抗するために、農地改革による土地の再配分や、社会保障制度の整備などが進んだのだ。

 

世界中で1980年前後にもっとも不平等が小さくなっていて、日本では1983年に最も豊かな上位1%の人々の所得が国全体の所得に占める割合が最小になっている。私は高校2年生で、2度のオイルショックを経て経済は上り調子で、日本は経済格差なんてあんまりないよねと、明るい未来を信じていた頃。

 

私にとっては、その頃があるべき社会の姿でありここ20年は少し調子が悪いだけ。調子が戻ればいつか元に戻るのではないか、と無意識に考えてしまう。しかし、人類の長い歴史を振り返ってみると、20世紀の中頃の状態が非常に稀な、例外的な状況だったのだ。

 

社会が安定すると、確実に不平等は拡大していく。戦争・革命・国家の崩壊・疫病。この4つの暴力的な事象が発生し、世の中がひっくり返らない限りは、数百年単位で不平等は拡大していくというのが、これまでの歴史から見えてくるのだ。

 

だから、そう簡単には格差は是正できないと覚悟して臨まないといけない。

暴力と不平等の人類史: 戦争・革命・崩壊・疫病

暴力と不平等の人類史: 戦争・革命・崩壊・疫病