散歩

呑んだ後は無闇に歩きたくなる。1時間くらいは歩く距離だ。頬に夜風を感じながらのんびり歩く、見上げると月なんか輝いていて。気持ちいい季節になった。


小平の会社の独身寮に住んでいた頃(15年前)、国分寺の駅前で飲んだ後は、もの好きな友達と二人で、ぶらぶらと1時間くらいかけて歩いて帰った。歩き足りないと寮からさらに、小金井公園までただ散歩にいって帰ってくる。酔いが醒めると焼き鳥やに入って呑みなおしたり、甘いものが食べたくなるとコンビニでアイスを買って食べながら歩いたりと、きりがない。歩きながら話すことといえば、バブルがはじけて日本の将来はどうなるとか、わが社の今後はこうあるべきだとかということはまったくなく、昼下がりの蕎麦屋で飲む酒はなんであんなに利くのかとか、NHKの「今日の料理」の陳健民は何しゃべってるのかよくわからなかったけれど、広瀬久美子アナウンサーとの掛け合いは面白かった。小野正吉はなんでいつもあんなに不機嫌で怒ってばかりなのか。とか、どうでもいいことばかり。


どうでもいいことだけ話して、他人の迷惑も顧みずゲラゲラ笑ってばかりいたけれど、ある時5階建て団地が立ち並ぶ一角を歩き、家に点る蛍光灯の光を見上げながら、「あのひとつひとつの灯りの下にはお父さんとお母さんがいて、仲良く話したり喧嘩したり子供を叱ったりいろんなことやってるんだよなぁ。」と彼が話したことがあった。そんな生活がうらやましいような、うらやましくないような、いずれにしてもしばらくは、自分には関係がないような気がしてしんみりした気分になった。


今は呑んだあと一緒に歩いてくれる人もいないけれど、夜道をぶらぶら歩くのはいい気分だ。