坊ちゃん

坊ちゃんが愛媛の中学に赴任して、校長から辞令を受け取る時のお話。

まあ精出して勉強してくれと言って、うやうやしく大きな印の捺った、辞令を渡した。この辞令は東京へ帰るとき丸めて海の中へほうり込んでしまった。校長は今に職員に紹介してやるから、いちいちその人にこの辞令を見せるんだと言って聞かした。よけいな手数だ。そんな面倒なことをするよりこの辞令を三日間教員室へ張り付ける方がましだ。
(中略)
それから申しつけられた通り一人一人の前へ行って辞令を出して挨拶をした。大概は椅子を離れて腰をかがめるばかりであったが、念の入ったのは差し出した辞令を受け取って一応拝見をしてそれをうやうやしく返却した。まるで宮芝居の真似だ。

私の勤務先では同じこと今もやってる。4月1日の異動日に職場中の人が辞令を持ってあいさつまわりに走り回る。みんなが一斉にあいさつ回りをしたって、顔も覚えられないし、内部の人へのあいさつなんかどうでもいいと思うので、私は最近やらないようにしてる。あいさつ回りの人が持っている辞令は、受け取ってしげしげと拝見させていただくためにあるんだ。今度やって見よ。


100年前にくだらないと言われた習慣が今も続いていることが恐ろしい。


「猪口才」、「背戸」とか出てくる言葉が懐かしい。久しぶりに見た。あと2〜3世代あとには用語解説が必要になりそう。

坊っちゃん (新潮文庫)

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