火の誓い

陶工 河井寛次郎のエッセイ集。昭和10年代、20年代に書かれたものが多いです。故郷である島根県安来の風物を描いた第三篇「町の景物」は、風土に根ざす生活の様子がありありと綴られます。雲雀を追う話や、雪に閉じ込めらた冬が浜鳴りの響きとともに、春になって行く様子、心に染みます。

子供達は何処の米か判らないような米ではなく、土地の米から、土地の野菜から、近くの海の魚から彼らの体を貰った。土地の声である地方語から心を貰った。なだらかな山と静かな入り海と湖と、それにはさまれたこきざみの田や畑から気質を貰った。(中略)


どこの子供達もそうであるように、ここの子供達も物心つくと皆群れて遊んだ。そして同じ焦点に向かってシャッターを切った。明治三十年前後の町の腕白者達はどういうものを見ていたか。又どういうものに見られていたか。そのうちの一人が、五十年を経てげんぞうして見たこれれらのものは、その影像の一部である。


昭和40年代の田舎には、この本で描かれるような古い日本の風物の名残りが、まだかろうじてありました。生活道路は砂利道。機械化される前で、田植えと稲刈りの時は、親戚一同が集まって手伝い。夜は大宴会。米はもちろんハサ掛けして自然乾燥。祖父の家には囲炉裏が現役で使われ、便所は離れにありました。ハサ掛けした稲の間を歩くときの、乾いた香ばしい匂いを思い出しました。


河井寛次郎記念館には一度行ってみたい。:http://hcn.plala.or.jp/fc211/sagi/

火の誓い (講談社文芸文庫)

火の誓い (講談社文芸文庫)