量子力学と私
日本人として二人目のノーベル賞を獲得した、朝永振一郎の著作集です。自らの研究生活をふりかえったもの、素粒子とは何かを素人にもわかるように解説したもの、など11編あります。
ベルリンでの留学生活を綴った「滞独日記」は、研究がうまくいかない日々のことが延々と綴られています。何度計算してもうまくいかず、やり直して、まただめで・・・・。何ヶ月も続いていきます。その間、湯川秀樹が京大の教授になることをしって、もうおれなんかダメなんだと嘆いてみたり。あんまり、いじいじした内容なので、途中で読むのを止めてしまおいうかと思うくらいです。
汽車はウィーン行であって、出発の時、ぼんやりとまどから外を見ていると、人々が手をふったりキスしたりして別れる。世間に、物理などで苦しんでいる人間は九牛の一毛のようなものだ。平凡人になり切りたいという考えがそういう感情をおこさせる。
素粒子とは何かを素人向けに解説した、「素粒子は粒子であるか」と「光子の裁判」は、素粒子のことを、頭から煙がでるくらい考えに考え抜いた人が、丁寧に言葉を選んで解説しているのが感じられて読み応えあり。特に「光子の裁判」は、光の干渉縞実験を事件現場として、光の粒子、光子(こうし)を「波及光子」(なみのみつこ)という被告人に例えて、検察官は、光子が二つの窓(スキマ)を同時に通過することはありえないと主張。弁護側は、光子が同時に通り抜けると考えざるを得ないことを主張します。検察官と弁護士の問答をとおして、常識では考えられない素粒子のふるまいを、緻密に段階を追って明らかにしていきます。
「光子の裁判」だけでも読む価値あり。
- 作者: 朝永振一郎,江沢洋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1997/01/16
- メディア: 文庫
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