意識とは何だろうか 脳の来歴、知覚の錯誤

久しぶりにいい新書に出会った。著者が長年に渡って緻密に考えてきたことを、ぎゅっと濃縮してコンパクトにまとめてある。新書はやっぱりこのくらい濃い内容のものを読みたい。


錯視=イリュージョンと正常の視覚の違いって何だろう?というところから説き起こします。神経を通して物理的な刺激を脳が受け止めるという過程だけでは、知覚や認知の仕組み説明できないことを、数々のイリュージョンの例を通して説明していきます。


オレンジ色のサングラスをかけると、かけた直後はすべてがオレンジ色に見えるけれど、しばらくして慣れてくると普段と同じように赤や黄色を正常に区別できるようになること。壁に縦縞が描いてある部屋で育てた猫は、縦縞に反応する神経が増えて縦縞が見えやすくなるけれど、横じまは見えにくくなること。などを例に、これまでに脳がどんな刺激をうけてきたか、つまり、どんな身体をとおして、どんな環境にあったのか、また、どんな記憶、体験をしてきたのかによって、知覚が大きく変わってくると言います。脳を取り巻く身体や環境、これまでに受けてきた刺激、記憶を、著者は脳の「来歴」と呼びます。物理的に同じ刺激を受けたとしても、脳の「来歴」によって知覚や認知が全く違ってきます。


脳が身体や環境に広がっているとも言えますし、身体や環境すべてを脳が取り込んでいるとも言えます。


そこから、脳が能動的に指令を出す根本の場所はどこかにあるのか?意識はどうやって生起するのか?について考察を進めていきます。能動性や意識というものは、自分の脳をどれだけ細かく調べて分析しても出てこない、他者との関係性の中でしか生じ得ないというところがおもしろかった。他者が何を考えているのか、他者の気持ち=意識を想像することがまずあって、そこから、逆に、自分の気持ちを意識するようになるといいます。大勢の人の前で転んで、恥ずかしい思いをするのは、他者がかっこ悪いと思っているだろうと思うことがあって、そこから自分のことを恥ずかしいと意識するようになります。


「意識」については、いろんな人がいろんなことを考えているのでおもしろい。脳、意識についての4冊
私とは何か さて死んだのは誰なのか http://d.hatena.ne.jp/benton/20101002/p1
アナログ・ブレイン脳は世界をどう表現するか? http://d.hatena.ne.jp/benton/20071224/p1
意識とは何か 私を生成する脳 http://d.hatena.ne.jp/benton/20080810/p3
脳は空より広いか http://d.hatena.ne.jp/benton/20080810/p2

「意識」とは何だろうか―脳の来歴、知覚の錯誤 (講談社現代新書)

「意識」とは何だろうか―脳の来歴、知覚の錯誤 (講談社現代新書)