日本は悪くない 悪いのはアメリカだ
1980年代後半、日本が巨額の対米貿易黒字を計上していた頃、「日本の高い貯蓄率が問題だ。失業を輸出してる。日本は輸出に見合う輸入を促進しなければ。」という議論がしきりになされました。著者はそれは間違っている。悪いのはアメリカの狂ったような過剰消費だ。アメリカの過剰消費に引っ張られて、輸出が超過、経済規模が拡大し結果として貯蓄超過となったのだといいます。
今から20年以上前の経済情勢についての本、しかもよくあるビジネス書のようなタイトルですが、著者は下村治。池田勇人の高度経済成長政策のプランを支えた経済学者だというのに惹かれて読んでみました。
戦中は経済官僚として、戦時統制経済の立案にもかかわっただけあって議論が非常に骨太。そもそも、経済政策はどうあるべきなのかから説き起こします。
では、本当の意味での国民経済とは何であろうか。それは、日本で言うと、この日本列島で生活している1億2千万人が、どうやって食べどうやって生きて行くかという問題である。この1億2千万人は日本列島で生活するという運命から逃れることはできない。そういう前提で生きている。中には外国に脱出する者があっても、それは例外的である。全員がこの四つの島で生涯を過ごす運命にある。
その1億2千万人が、どうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するか、これが国民経済である。
もちろん、日本は日本でそういう努力を重ねるが、他の国は他の国でそういう努力をする。そこでいろんな摩擦が起きるのは当然なことである。それをなんとか調整しながらやっていくのが国際経済なのである。
あたりまえのことなのですが、日々の目先の事象に右往左往している身には、ハッとさせられました。
マクロ経済の議論でよく出てくる、「貯蓄超過=輸出超過」の恒等式は結果としてそうなるのであって、不均衡状態から均衡状態への道筋はいろいろある。貯蓄超過が原因で輸出超過になることもありえるし、その逆、輸出超過となったことが原因で貯蓄超過となることもある。という解説のくだりも、丁寧な説明で非常にわかりやすい。
何が原因で何が結果なのか、単なる相関じゃないのか、経済のお話をするときは気をつけましょう。
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下村治の人となりについては、こちらが面白い。
危機の宰相:http://d.hatena.ne.jp/benton/20110419/p1
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