宇宙線地球号操縦マニュアル

昔むかし、カーグラフィックで、「ダイマクションカー」が特集されていた。できるだけ少ない資源で、できるかぎり多くのことを成し遂げるという考えで設計された車だという。葉巻型というか、芋虫型というか車の概念からかけ離れた形をしていたので、ずっと記憶に残っていた。


そのダイマクションカーを設計した、バックミンスター・フラーの著作。著者の意図は冒頭のこの文章で表明されている。

自分の偏狭な近視眼的専門分野だけに終始して、私たち共通したジレンマの解決なんか他人まかせ、もっぱら政治家にまかせたほうが社会的にも簡単だと考えだす。しかしこういう、おとなになるにしたがって生まれてくる偏狭さとは反対に、自分たちが抱えているできるだけ多くの問題に対して、できるかぎりの長距離思考をつかってぶつかっていくということに、私は「子供じみた」最善を尽くしたい。


何度もくり返し強調されるのが、専門馬鹿になるな、シナジェティックに考えろということ。シナジーとは

システムのなかの別々の部分、あるいはそうした部分の寄せ集めの振る舞いをバラバラに見ていても、決して予想ができないような、そんなシステム全体の振る舞い


彼は、富を下記のように定義する。

富というのは、代謝的、超物質的再生に関して、物質的に規定されたある時間と空間の解放レベルを維持するために、私たちがある数の人間のために具体的に準備できた未来の日数のこと。


そして、地球を宇宙船にたとえて、その宇宙船を維持し未来に生命をつなげていくためにすべきことを考える。

太陽から貯めるのに何十億年もかかった化石燃料を燃やして、そのエネルギー貯金だけに頼って生きるのか、あるいは地球の原子を燃やして私たちの資本を食いつぶして生きるのか、どちらにしても、それでは後の世代の人間たち、そして彼らの前に広がる日々に対して、まったく無知、そして完全に無責任というものだ。私たちの子供たち、そして彼らの子供たちが、私たちの未来なのだ。全生命を永遠に支えることができる私たちの潜在的な能力を包括的に理解して、花開かさなければ、私たちは宇宙のなかで破産する。


長い射程で、幅広い見地から将来を見通してみたい人にお薦め。

宇宙船地球号操縦マニュアル (ちくま学芸文庫)

宇宙船地球号操縦マニュアル (ちくま学芸文庫)