経済政策形成の研究 既得観念と経済学の相克

経済学者の愚痴をまとめたような本。経済学の専門家の間の生々しいやりとりが見え隠れして面白い。いわゆるリフレ派と呼ばれる人たちが書いた本です。


経済学の専門家の間では合意がとれている政策が、現実にはなかなか反映されないのは何故か?例えば、自由貿易については、各国が比較優位の産業に特化して貿易を行ったほうが効用は増える、というのは経済学者の間ではほぼ合意がとれていること。しかし、現実には貿易の自由化を進めるというと今でもすったもんだする。


社会全体では効用が増えても自由貿易によって分配が変わる。既得権益が貿易によってそれが失われる可能性のある人たちが自由化に強行に反対する。例えば、今まで関税で保護されていた農家が農産物の関税引き下げに反対する。これは理解できる。しかし、関税引き下げで利益を受けるはずの消費者までもが関税引き下げに反対する。この既得権益の対立だけでは説明できない部分、世間が共有する利害を超えた思い込みを本書では「既得観念」と名づけている。


既得観念の例としてあげられているのは、

  1. 自由貿易
  2. 移民の受け入れ
  3. インフレへの嫌悪
  4. 日本経済の再生のためには痛みに耐えて改革を行いリセットしなければいけない、とする構造改革主義、清算主義 など


4の清算主義については、最近では小泉政権の「構造改革なくして景気回復なし」のキャッチフレーズが記憶に新しい。1930年の金本位制への旧平価での復帰、明治時代の松方財政の背景にも、「不況こそが不健康な企業を市場から淘汰し経済構造を強靭にすることができる。景気対策は不要だ。」という清算主義の考えがあったといいます。金本位制への復帰は昭和恐慌の引き金となり、松方財政も猛烈な不況へとつながり、その社会的なコストは甚大だった。


もっとがんばればなんとかなる、精神を鍛えなおせばなんとかなるというのは、個人にとっては意味のあるスローガンですが、経済政策に安易に導入するのは危険なのかもしれません。経済学を齧った者なら、みんながんばっていることを前提になんとかうまい仕組みを考えたいものです。

経済政策形成の研究―既得観念と経済学の相克

経済政策形成の研究―既得観念と経済学の相克