発展する地域 衰退する地域 地域が自立するための経済学

地域振興とか産業政策に関係している人は一度読んでおくべき本だと思う。


著者はジェイン・ジェイコブズ。編集者をしながら、都市計画や都市の再開発についての著作活動を始めた人。経済学者ではない。私は思いもよらなかった視点を得ることができました。。


まず、アダム・スミス以来「国民経済」という言葉があるように、経済活動を「国家」を単位とすることがあたりまえのように考えられてきたが、著者は、新たな産業が創出されるのは都市の企業や人々の活動が核となっているのであり、いかに都市を活性化していくかが重要だといいます。経済発展の根源は、都市の住民のインプロビゼーション=臨機応変に対応する力、であり国家に着目していては効果的な経済政策は実行できないと主張します。


次に、経済が発展するというのは、都市においてそれまで他所から輸入していた商品を、自分たちで生産できるようになる過程そのもののことだといいます。他国の市場にむけて、資源や農産物、工業製品を輸出して、その代金で自分たちの使うものを輸入する。そのような地域を「供給地域」といい、輸出産品の市場動向にその都市の経済は大きく左右されます。発展する地域は、輸入している物をなんとか自分たちで生産するように工夫します。それを「輸入置換」と名付けています。輸入置換の過程で新しい産業が生まれ、場合によってはあらたな輸出産品になります。


発展する都市は次々と輸入置換を繰り返しているものであり、新たな輸入置換がなくなれば都市は停滞し衰退していきます。


衰退する地域としては、遠くの市場に向けて特定の産物を供給するだけの「供給地域」のほか、安い労働力をもとめて都市から移植された企業に依存する「移植工場地域」が挙げられています。供給地域は輸出品の価格が下がったり、輸出品の代替物が発明され市場自体がなくなると悲惨なことになります。移植工場地域も工場がさらに安い労働力を求めて撤退すると衰退することになります。


産業振興の補助金や企業誘致は衰退の取引、一時的な効果はあっても補助金が途切れたり企業が撤退すると、後には何も残らない。では、どうするのか。都市ごとに独自の通貨を発行、都市ごとの関税の自主権を認め、各都市の裁量でそれぞれの産業を保護、育成できる仕組みが必要だといいます。もちろん荒唐無稽で実現できるわけがないのですが、国全体を漠然とターゲットとするのでなく、個別の都市の活力を最大限に引き出すことを考えると一理あると考えだと思いました。


発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)

発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)