貧乏人の経済学

実もふたも無いタイトルですが非常に面白い。世界から貧困をなくすには何をしたらいいか書いてある。行政に関わる人には是非読んでほしい本。


民主主義か独裁政権か? グローバリゼーションによって貧乏人は搾取されている。植民地時代に欧米諸国が導入した支配制度が今の政府の腐敗をもたらしている。そのせいでアフリカは貧困から抜け出せないんだ。いやいや、深刻な部族間の対立が足を引っ張っている。


世界の貧困について議論すると、社会がダメだから、政治がダメだから貧困はなくならないんだ。世の中がひっくりかえるような社会改革をしないと始まらない。というような話になりがちだ。著者はそうでない。どうしようもなくダメな政治制度の下でも、うまく設計された政策ならば社会をいい方向に変えることができるし、いい政治体制のもとでも、へたな政策は効果がないばかりでなく社会に悪影響を及ぼすという。


大上段に振りかぶった議論をする前に、できることは沢山ある。それは、貧乏人の生活や行動を丁寧に観察し耳を傾け、その結果を踏まえて貧乏な人の行動に則した政策を組み立て、試してみるべきだという。

細部がモノを言うのです。制度だってそれは同じです。制度が貧乏な人の生活にどう影響するかを本当に理解するには、大文字の制度から小文字の制度に視点を移すことが必要なのです。 つまり「下からの眺め」に注目するのです。

だから政治は政策とそんなにちがうわけではないのです。それは周縁部で改善できるし、改善しなくてはなりません。そして一見ちょっとした介入で、大きな変化が生まれます。本書で一貫して主張してきた哲学 細部を見過ごさず、人々の意思決定方法を理解して、実験を恐れず は、他のすべてと同様に政治にもあてはまるのです。

具体的な例として、貧乏人はなぜ貯蓄をしないのか? 貧乏人はなぜとんでもなく高い金利を取る金貸しから借金するのか? 貧乏人はなぜ子供を学校へ通わせないのか。貧乏人は食うことにも困っているはずなのに、無理してテレビを買ったり、嗜好品にお金を使うのか?など分析し、良く考え抜かれたちょっとした工夫で大きな成果を挙げた事例を紹介します。


「社会を根本的に変えないとダメだ。」と絶望する前に、やれることは沢山ある、なんでも利用して小さいところや周縁部から変えていこうと思うと少し楽観的になる。

貧乏人の経済学 - もういちど貧困問題を根っこから考える

貧乏人の経済学 - もういちど貧困問題を根っこから考える


この本を翻訳した山形浩生さんが手がけた本はどれも面白い。最近は訳者をみて山形さんなら読むことにしている。これまでの記録を振り返ってみるとこんなに読んでいた。

ウンコな議論:http://d.hatena.ne.jp/benton/20071230/p1
誘惑される意志:http://d.hatena.ne.jp/benton/20070826/p1
その数学が戦略を決める:http://d.hatena.ne.jp/benton/20090712/p1
毛沢東 ある人生:http://d.hatena.ne.jp/benton/20110110/p1