イチョウ 奇跡の2億年史

イチョウに、こんな歴史があったとは知りませんでした。

かつては北半球の全域に生育していたが、気候変動などであちこちで途絶え、かろうじて中国南部の山間で生き延びた。数千年前からヒトに大事にされ、1000年前ごろに自生地から寺院の庭などへの移植が始まる。800年前ごろには朝鮮や日本にも広まった。そして17世紀末に日本で西洋人に見出されるや、たった数十年でヨーロッパを制し、全世界の適地に進出していった。


イチョウは2億年前からほぼ今の姿で生き延びてきた大変珍しい樹木だそうです。化石を調べると、かつてはイチョウにもいろいろな種類があったらしいのですが、現存するのは一種類のみだそうです。確かにあの扇形のかたちの葉っぱは独特です。北半球に広く分布していましたが、気候が乾燥したことや寒冷化したこと、種子を運ぶ動物がいなくなったことから、5000万年前ごろから徐々に分布地域を狭めて行き、中国南西部の山間地域のごく狭い地域に残るのみとなったそうです。


そして、ヒトと出会うことでイチョウは復活して行きます。種子が食料になったからか、徐々に中国各地にヒトの手で移植され、日本には、14世紀頃伝わります。そして、長崎の出島からヨーロッパに伝えられ、今では世界中の都市で街路樹として植えられているそうです。


本書の最後で著者は、イチョウの歴史を引き合いに出して、生物多様性条約の問題点を指摘します。


多様な生物の遺伝情報は将来の役に立つ有用な資源だから、持続的に使えるように保存しなければならない。植物の自生地、原産地の国が責任をもって保存につとめ、その見返りに生物の遺伝情報などから得られる利益はその国に帰属する。


生物多様性条約の話の流れはこんなふうになっているそうです。これにより、生物多様性を守ろうという意識は高まったのですが、生物を資源として国ごとの囲い込む動きが強まり弊害も出ている指摘しています。非営利学術調査であっても、他国の生物を調べることがしにくくなったそうです。また、絶滅が危惧されるような貴重な植物を、自生地の国においてのみ囲い込んで保護するというのは、逆に絶滅のリスクを増やすことになるといいます。自生地の国でたまたま何か不運なことがあっても、他の地域でも保存されていれば生き延びれるかもしれないからです。


イチョウ復活の歴史生物多様性の維持に参考にべきだといいます。イチョウはヒトの手で多くの地域に移植されたことで、絶滅寸前から復活したのであり、原産地に囲いこむべきではない。そもそも、長い生命の歴史のなかで、ある時点で、ある国が自生地であることがそんなに意味があることなのかと指摘します。現在のイチョウは中国南西部が原産地かもしれないが、それより前は地球全体に繁茂していた植物であり、人類全体にとっての貴重な資源であるといいます。


生物の多様性が貴重であることを、図書館を例えにしているのが印象的でした。

介入できることがあるのにそれをしないで種を絶滅させることは、本の読み方をおぼえたら図書館は焼いてしまってもいいという考え方に等しい


イチョウ 奇跡の2億年史: 生き残った最古の樹木の物語

イチョウ 奇跡の2億年史: 生き残った最古の樹木の物語