アダム・スミスとその時代
講談社学術文庫にあったアダム・スミスの「道徳感情論」を読んでみたんだけれど、どうもすんなりと頭に入ってこない。すぐにただ字面を眺めているだけのような状態になるので、まずは、アダム・スミスの伝記を読もうとこの本を手にとった。
スコットランドのカコーディという小さな町で生まれて、グラスゴーやエディンバラで大学の先生をしながら一生を過ごす。生涯独身で母親と一緒に暮らしていたそうだ。あまり派手なところはなく、どちらかというと地味な印象。
ひょっとしたら、スミスの人生と思想において一番変わらない特徴とは、謙虚さだったのかもしれない。その対象範囲の広さや志の高さ、大胆不敵さにもかかわらず、彼の思想というのは、単純で一見大したことのないような人間本性の特徴ーすべての条件を同じとした場合に、自分自身や家族、自分の属する社会が置かれている境遇をよくしようとする、われわれの欲望ーについて省察するところから始める、そんなひとりの控えめな人間が作ったものなのである。それは日雇い労働者も貴族も、出世を目指す若者も賢人や為政者も、みながもっている性向である。この性向から、慎慮ある一般市民は、千年王国説じみた新たな天地創造を目論むよりも、生活や公共の事案への対処において小さな改善を少しずつ進めていくことを大切にするよう教えられる。
アダム・スミスは道徳感情論の最初の部分で他者への共感についてしきりに説く。ざっくり言ってしまうと、他者への共感が社会の基盤にあって、その社会の中で日々の生活を少しずつ改良していこうとすることが経済の繁栄に繋がるということか。