How are you doing?

今も決して愛想のいい方ではないけれど、子供の頃は人とあいさつするのが苦手だった。あいさつしなければと思えば思うほど、照れくさかったり、こちらから声をかけるのが恥ずかしくなったり、冷たくされたらどうしようと心配したりと妄想がどんどんふくらんでタイミングを逃してしまった。親にはあいさつしなさいと口が酸っぱくなるくらい言われ怒られたけれど、挨拶ができなかった。働きはじめて人並みにはあいさつするようにはなったけれど、苦手意識は変わらなかった。


少し考え方が変わったのはある出来事があったからだ。もう20年近く前、ラスベガスに行ったときのことだ。ラスベガスはアメリカの熱海のようなところでいろんな人が楽しみに来る。アジア系もヒスパニックも世界中からいろんな人が来る。ホテルのエレベーターに乗った時のこと、一緒になったのが革のジャケットを着て毛むくじゃらの太い腕をむき出しにしたヘルズエンジェルから抜け出したようなガラの悪い白人のおじさんと、アラブ方面から来たと思われる、頭から白い布をかぶったこわおもてのおじさんの二人。こりゃまずい組み合わせ、一触即発の危機か? 扉が閉じて目的の階につくまでの3人の沈黙にどうしても耐えられず、私が声をかけた。


How are you doing?


Not too bad.


意外にお二人とも気さくな人で、当たり障りのない会話が始まり、ほっとしたことを思い出す。何を考えているのかわからない人同士が出会ったときに、「私はあなたの敵ではありません。」という気持ちを表明するあいさつ。大事だと思いました。