最後に見たパリ

第1次世界大戦と第2次世界大戦の間のパリの雰囲気に浸れる本です。


新聞記者としてパリに滞在していた著者のエリオット・ポールが、彼が暮らしたユシュット通りの普通の人々の暮らしの様子と、戦争に向けて世の中が徐々にピリピリした雰囲気になっていくようすを綴ります。


第一部 戦後の二十年代
第二部 戦前の三十年代
第三部 一国家の死


第一部は、ユシュット通りに暮らす公務員、雑貨屋、金魚売り、製本職人、娼婦、共産主義者、聖職者の暮らしぶりを紹介します。毎日のようにホテルの食堂で昼飯を食べ、夜もバーで集っている様子が生き生きと描かれます。「第十九章 中央市場」がいい。

周辺何マイル、何キロのすべての苺が、真夜中を過ぎると或る大きな古い教会のそばに集ってきて、その緑の葉を添えて藁の籠や箱に入れられ、整然と並べられるようにしたのはフランスの叡智だ。一人の人間が八インチの距離から一個の野苺の香を嗅ぎとることができるのなら、玉石を敷いた上の、瑞瑞しい葉に囲まれた百五十万個の苺の香を、四百万の人間はどれくらい離れても楽しめるだろう?


第二部、第三部では、戦争に向けて社会の緊張が高まり、右派と左派がホテルの食堂で一緒に集うような雰囲気でなくなっていく。ナチスのパリ占領の直前で終わる。大正デモクラシーから昭和10年頃までの開放的な社会の雰囲気、そこから軍国主義が台頭し戦争に突き進んで行く日本の流れと同じだと思った。


この本は、吉田健一が「書架記」という作品の中で絶賛していたもの。翻訳が吉田健一の長女である吉田暁子さんということもあり、是非一度読みたいと思っていた。著者が新聞記者ということもあるのか、深刻な内容であってもユーモアをまじえて淡々と描写するので重すぎない。


1920年代には生まれていないし、パリにも行ったことがないけれど、そのときそこに居たような気分になれる本です。

最後に見たパリ

最後に見たパリ