多数決を疑う 社会的選択理論とは何か
多数決は本当に正しく民意を反映しているのかと著者が問いかけるところから始まる。
多数決という意思集約の方法は、日本を含む多くの国の選挙で当たり前に使われている。だがそれは慣習のようなもので、他の方式と比べて優れているから採用されたわけではない。そもそも多数決以外の方式を考えたりしないのが通常だろう。だが民主制のもとで選挙が果たす重要性を考えれば、多数決を安易に採用するのは、思考停止というより、もはや文化的奇習の一種である。
多数決は、各人が一番良いと思う選択肢に1票を投じ、最も多くの表を集めた選択肢を採用すること。多数決の何が悪いというのか。民主的な手続きのキホンの基本じゃないか。と思いながら読み進めた。
多数決には、票の割れで結果が180度変わってしまうという問題がある。著者は2000年のアメリカ大統領選挙を例に挙げる。共和党のブッシュと民主党のゴアが、ほぼ拮抗していたが、事前にはどちらかというとゴア候補が優勢だった。そこに第3の候補であるラルフ・ネーダー氏が立候補した。ラルフ・ネーダーはゴア候補に近い政策の人。その結果、優勢だったゴア候補の票が割れてブッシュが当選するという結果になった。ゴア候補に近い政策を支持する人が多かったにもかかわらず、票が割れて反対の結果になってしまったのだ。
その他にも多数決には「ペア敗者」が当選してしまうという問題がある。任意に選んだ二つの選択肢で比較した場合に、どの組み合わせのペアでも負けてしまう選択肢が、全体で多数決をすると当選する可能性があるのだ。
ではどうするか。著者は上記のような問題を解消するには「ボルダールール」が良いと言う。ボルダールールでは、各人が最も良いと思う選択肢から順番に順位付けをして投票する。そして1位には6点、2位には4点、3位には2点というように、順位に応じて等差の得点を与えて、それを集計する。
民意を集約する方法には、多数決、ボルダールールの他にもコンドルセの最尤法や決選投票付き多数決、繰り返し最下位消去ルールなどいろいろあるが、完璧なものはない。選択肢の数や重要性に応じて使い分けるべきものであり、どの方法を採用するかが実は結果を左右する最も重要な要因となのだと言います。
ボルダールールは多数決に比べて手間がかかるけれど、今の情報処理技術からすればそれほどでもないかと思う。多数決=民主的な手続きと思い込んでいた自分にとっては目から鱗でした。
民意を集約する最も良い方法を数学の手法を使って研究する社会的選択理論は新しい分野。著者は他にもこんな本を書いています。こちらはオークション理論などを扱っていますが理路整然としてわかりやすいです。
マーケットデザイン 最先端の実用的な経済学 - benton雑記帳