コーカサスの金色の雲

1944年、ナチスドイツを撃退した直後のソビエト。モスクワの少年院で暮らしていた孤児のクジミン兄弟は、コーカサス地方へ送られる。コーカサスカスピ海黒海に挟まれた豊かな土地。そこに行けばたっぷり食べられるという募集の文句に引き寄せられたのだ。列車でコーカサスについてみると、雄大な山並みの麓、畑には葡萄やスモモ、トウモロコシが豊に実っている。でも、街に人の気配がなく何かがおかしい。実はそこは、直前までチェチェン人達が暮らしていた土地。スターリンの命令でチェチェン人達は中央アジアへ民族丸ごと強制移住させられ、もぬけの殻になったところに新天地を夢見たクジミン兄弟のようなロシア人が移住したのだ。

 

クジミン兄弟はチェチェン人の学校をそのまま転用した少年院で暮らし始める。しかし、やがて夜ごと、強制移住を逃れて山岳地域に身を潜めていたチェチェン人の襲撃に晒され始める。

 

食べる物や着るものがない戦時下の悲惨な生活が描かれるだけでない。スターリン体制下で家族の誰かが強制収容所に連れて行かれた人ばかり。ナチスへ協力したかどで政府に迫害される人々。そしてチェチェン人の200年以上にわたるロシアとの戦い。そんなことが全部一緒になってのしかかってくるので重たい。打ちのめされる。

 

チェチェン人とロシアとの戦いは18世紀末、帝政ロシアコーカサス地方への侵攻から始まる。トルストイの「ハジ・ムラート」はその頃のチェチェンの英雄を扱った物語だ。1917年のロシア革命の時には、チェチェン人は帝政ロシアの敵である赤軍に協力したそうだ。しかし、スターリンは1944年に彼らを故郷の地から根こそぎ追い払ってしまう。1989年のソビエト崩壊後にチェチェン共和国の独立を図ろうとすると、今度は、徹底的にロシアから弾圧される。この物語にも血で血を洗うような凄惨な場面もある。

コザック ハジ・ムラート - benton雑記帳

 

もともとは1980年台に書かれた小説。チェチェン人の強制移住に触れていたため発行禁止になり、原稿が人々の間で回し読みされていたものが、ペレストロイカの時代に出版されたそうだ。

 

 主人公のクジミン兄弟が悲惨な状況の中でも明るく、たくましく生きて行く姿と、コーカサスの山並みの描写に救われます。

 

コーカサスの金色の雲 (現代のロシア文学)

コーカサスの金色の雲 (現代のロシア文学)