一汁一菜でよいという提案
料理研究家としては随分思い切った提案。日常の食事は、いつもと同じものでいい。毎回何か真新しいものを作ろう、品数を増やそうと悩まなくていい。ご飯と、味噌汁と、漬物。これだけでいい。一汁一菜が和食の基本。もし余裕があればおかずを一品ってみようかくらいのつもりでちょうどいい。
ご飯の炊き方の説明があるくらいでレシピらしいものは一切なし。著者が普通に食べているご飯と味噌汁と漬物の実例写真があるだけ。ピーマン、炒めたキャベツとベーコン、ナスと落とし卵など、かなり自由。味噌の力に任せて冷蔵庫にあるものなんでも味噌汁にしてみればいい。唐揚げでもいい。びっくりするくらい美味しくなることもあれば、そんなにおいしくないこともあるだろう。それでもいい。それが日常の暮らし、「ケ」の食事だという。奇抜なものを一品増やすよりも、味噌汁を自分のため、家族のために毎日自分で丁寧に作ることが大事だと言う。
もちろん、ハレの日にはハレの日用の料理がある。ハレの日には鰹節と昆布で丁寧に出汁をとったお吸い物。何時間もかけて煮た黒豆。種類ごとに別々にたいて盛り合わせた煮物。ハレの日の料理は、特別な日に神様に捧げて、おさがりを神様と一緒に食べる料理だ。
毎日、おいしいもの食べたいと料理に頭を悩ましたり、もう一品作ろうと時間をかけるのがあたりまえと思ってきたけれど、普段通りの一汁一菜でいいと言われると、料理に対して身構える気持ちが楽になる。
普段はご飯と味噌汁と漬物だけでいい、それが和食だ。と言い切れる著者はなかなかすごい人だと思った。