断片的なものの社会学 人の語りを聞くということは、ある人生のなかに入っていくということ。

著者は社会学者の岸政彦さん。沖縄から本土に出稼ぎに来た人たちにインタビューした「同化と他者化 戦後沖縄の本土就職者たち」や、ホームレスや同性愛者などの身の上話を綴った「街の人生」などの著書がある。

 

この本は、市井の人たちにインタビューする中で出会った、本に取り上げるほどではないくらい些細だけれども、心に突き刺さったエピソードとそれを巡る著者の考察からできている。

 

元ヤクザ、風俗で働く女性、ハンセン病患者、新世界の路上でギターを弾くおじいさん。普通じゃないとレッテルを貼られた人たちのことを知ることは、普通の人の社会のあり方を知ることだ。と著者は言います。

いま、世界から、どんどん寛容さがや多様性が失われています。私たちの社会も、ますます排他的に、狭量に、息苦しいものになっています。この社会は、失敗や、不幸や、ひとと違うことを許さない社会です。私たちは失敗することもできませんし、不幸でいることも許されません。いつも前向きに、自分ひとりの力で、誰にも頼らずに生きていくことを迫られています。

 

理不尽で惨めで辛いけれど、そんな状況になんとか折り合いをつけて生きていく。それは、弱者と言われる人に限られるのでなくて、普通の側にいる人間にとっても、明日にでも起こりうること。どうすべきかという答えを教えてくれる訳ではない。ただ向き合う。現代版の「日本残酷物語」のようだ。

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学