幻影の明治 名もなき人びとの肖像

 江戸の人々の生活の肌触りを丁寧に掘り起こした「逝きし世の面影」の著者、渡辺京二が明治の人々について書く。

 

「第一章 山田風太郎の明治」では、山田風太郎の明治期に題材をとった推理小説から、庶民の行動、考えていたことを説き起こす。

 

「第三章 旅順の城は落ちずとも」で司馬遼太郎の「坂の上の雲」の書き出しをこき下ろしているところが面白い。

明治初年の日本ほど小さな国はなかったであろう。産業といえば農業しかなく、人材といえば三百年の読書階級であった旧士族しかいなかった。

国としてはポルトガルやオランダのほうがすっと小さいし、江戸時代末期には日本各地で特産品が生産され市場経済は豊かに花開いていた。また、町人、農民にも学問、武術は浸透していた。渋沢栄一も、間宮林蔵も農民出身だ、なんて与太話をしているんだと、けちょんけちょん。明治維新を素晴らしかったと持ち上げるために、江戸の日本を矮小化しているんじゃないかと言います。

 

「第四章 士族反乱の夢」は自由民権運動を扱う。著者は、自由民権運動とは、他藩の士族が薩摩、長州藩の権力独占に異議を唱え、士族層全員に参政権を与えるように要求した政治運動であり、決してルソーの思想に影響された平民の運動ではないと、冷めた見方をする。

 

様々な先入観にとらわれることなく、資料を丁寧に読み込んで、時代の雰囲気、気分を掘り起こそうとする姿勢に魅かれる。

幻影の明治: 名もなき人びとの肖像

幻影の明治: 名もなき人びとの肖像

 

 

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)