不確かな医学

著者は、アメリカ人でがん専門の内科医。「がん4000年の歴史」でピューリッツァー賞を受けている。

 

物理学などの他の科学と比較して医学にどんな特徴があるのかを、医学の三つの法則として説明する。TEDの講演が元になっているのでコンパクトでわかりやすい。

 

一つ目は、どんなに検査技術が進歩しても偽陽性(病気になっていなくても検査で陽性と判定されること)をゼロにできないので、患者の病歴や家族の症例、生活習慣などを知ることが重要だということ。100人に1人が感染する病気の患者を見つけ出すために、全住民が5%の確率で偽陽性の判定が出る検査を受けたとしたら、陽性反応が出た住民のうち本当の患者は16%しかいないのだ。なんの事前知識もなく検査するのは、費用の無駄遣いでしかないという。事前知識から推論して、必要な検査の目星をつけて正しい診断を下すのが医者の腕の見せ所なのだ。

 

二つ目は、既存の理論では説明できない、特異な症例に着目することが、画期的な理論の構築に重要であること。あまり治療効果がない抗がん剤も、1000人にひとりくらいの割合で、劇的に効く患者も存在するらしい。従来は、そのような患者は例外的な事例ということで片付けられていたが、なぜ効いたのかを徹底的に調べたところ、遺伝子の特定の場所に変異がある患者に、治療効果があることがわかったそうだ。

 

三つ目は、医師もなんとか治療したい、患者も何としても病気を治したいと強く願っているために、治療効果を検証する際にどうしてもバイアスが入ってしまうこと。二重盲検法で医師のバイアスを排除できたとしても、自分の医師で治験に参加する患者のバイアスを除くことは難しい。

 

効果がある医療を行えるようになったのは、たかだかこの100年であり、今もよくわからない病気に罹ったよくわからない患者に対して、よくわからない治療法を用いてなんとか治療するという側面が残っているのだ。医学はまだまだ歴史が浅く、若い科学なのだ。

 

そう考えると、深刻な気持ちの患者さんに毎日向き合うお医者さんのプレッシャーは大変なもんだと思う。

不確かな医学 (TEDブックス)

不確かな医学 (TEDブックス)