家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか

 1940年代のソ連ではメンデルの遺伝学はブルジョワの考え方であり反動的であるとされていた。ソ連の遺伝学者、ペリャーエフはメンデルの遺伝学を否定することを拒否していたため1958年になってシベリアへ左遷される。ペリャーエフはモスクワから遠く官僚の目が届かないことを幸いに、独自の研究を進めた。

 

その研究というのが、キツネの家畜化だ。

 

飼育しているキツネの中から、人間が近づいてもそれほど嫌がらない個体、人間に対する警戒心が強くない個体を選んで、交配を重ねていく。そうするとたった数世代で、人間を見ると犬のように尻尾を振って近寄ってくるまでに人間に従順なキツネになったのだ。キツネの行動が変わっただけではない。体が少し小さくなり、オスとメスの体格の差も少なくなる。垂れ耳や、白い毛交じり、まだら模様のキツネが生まれるなど、身体も変化したのだ。

 

人間や他のキツネと一緒にいても平気なキツネの性格をつかさどる遺伝子は、キツネの身体の変化も引き起こすのだ。従順なキツネ=家畜化されたキツネは、子供の時の性格や体型のまま成体になるのだ。

 

著者は、猫、犬、豚、牛、馬、ラクダ、ネズミに関して、野生種と家畜化された動物を比較し、どのように進化したのかを検証する。家畜種は野生種に比べて成熟が早期に止まり、子供の性格、体型のまま大人になるという。

 

著者は人間の自己家畜化についても検証するが、人間の場合は、野生種の人間が地球上に存在しておらず比較ができないため、自己家畜化については慎重な立場だ。

 

数十年前の大人の顔つきを今の大人の顔と比べると明らかに違う。ゴツゴツしたところがなくなり、総じて顎が細くなり、シュッとした顔に変化している。これはまさに幼児化ではないか、20世紀を通じて人間は自己家畜化を推し進めて、従順な人間ばかりが生存する世の中になったのだ、とこの本を読みながら、半ば興奮気味に早合点したくなったのだが、著者はあくまでも慎重な立場だ。

家畜化という進化ー人間はいかに動物を変えたか

家畜化という進化ー人間はいかに動物を変えたか