そして、みんなバカになった

 橋本治が好きかどうかと聞かれると、ものすごく好きという訳ではない。なんでも根っこからひっくり返して考え始めるし、思いもかけない細かいところにこだわるので、いちいち説明が面倒くさいのだ。でも、1年に1度くらい、無性に読みたくなる。特に、これからどうしよう、とか、このままでいいんだろうかなどと、迷っている時に、橋本治は最近どんなことを言っているのだろうと、読んでみたくなるのだ。

 
だから、昨年亡くなったと聞いた時には驚いた。頼りにしていた人がいなくなった。
 
この本の巻末に橋本治の年代別の著作リストがある。これを見ると私が小学校6年生、1978年に最初の著書「桃尻娘」が出版されている。当時本屋さんで平積みになっていた桃尻娘の表紙を見ていた記憶はある。でも、子供が読んではいけない本だと思って手に取ったことはない。あまり小説を読む習慣がなかったこともあり大学生になるまで、橋本治の本を読まなかった。初めて読んだのは、1985年出版の「親子の世紀末人生相談」だ。多分その時も何かに悩み、人生相談というタイトルに惹かれたのだと思う。
 
その後も、「ぼくたちの近代史」、「江戸にフランス革命を!」「貧乏は正しい!」、「ああでもなくこうでもなく」、「「わからない」という方法」、「上司は思いつきでものを言う」、「橋本治という考え方」などを読んだ。
 
読んでも、「なるほど、ようくわかった、スッキリ。」と感じることはなく、モヤモヤ感が残るのだが、後からじんわりとくるので癖になるのだ。
 
この本は、橋本治が2000年代に残したインタビューを集めたもの。第1章「どこまでみんなバカになるのか」では、70年代から日本人はバカになり始めて、2000年代には、バカの最終局面に入った、このままではバカばかりで人間が滅びてしまう。と言う。「バカになる」とは、ややこしいことがあっても、その場が楽しければいいとか、経済が発展していけばいいんだ、どう生きるべきかとか、社会全体をうまく回すにはどうすべきかなどと考えなくなったということ。
 
70年代に大学のレジャーランド化が進み、バブルの時代には、フリーターで食っていけるなら七面倒くさいこと考えなくてもいい、バブル崩壊後は、とにかく経済さえ復活すればと商売に逃げる。その結果が50代、60代になっても子供のまま。このままでは誰も社会を支える人がいなくなり、基本的な仕組みが朽ち果てて人間が滅びるよ。
 
70年代からのバカになっていく流れのど真ん中にいたのが、今年54歳になる私だ。下の世代と話していると、自分がいい加減、不真面目だと感じる。既存の制度に文句を言って、そんなもの無くしてしまえと廃止するけれど、それに代わる新たな仕組みを作り上げるわけでもない。
 
 
そして、みんなバカになった (河出新書)

そして、みんなバカになった (河出新書)

  • 作者:橋本治
  • 発売日: 2020/04/25
  • メディア: 新書