家をつくる

ツイッター上で紹介されているのを見て、名前と表紙のたたずまいに惹かれた。著者の王澍さんは中国人の建築家として初めて建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞をとったというのも興味を惹かれた。1963年生まれと私と年代も近い。
 
内容は著者の建築について考え方を綴ったエッセー、自身が手がけた杭州の「中国美術学院象山キャンパス」と「寧波美術館」の建築の過程の紹介。写真もたくさんあって文章と照らし合わせて読みやすい。
 
自分は文人である。建物を建築するのでなく園林を含めて世界を造作するのだ。刺激的な言葉が続く。1990年台に中国経済が驚異的な発展ととげる中で、伝統的な中国の建物が根こそぎ一掃され、高層マンションが立ち並ぶ街に作り変えられてしまったことに危機感をいだき、建築家としての活動を一時やめていたともある。
 
中国美術学院象山キャンパスの設計にあたっては、山水画に描かれる建物のように自然の中になじんだ、自然環境にひっそりと一体化した建築であることをめざしたという。敷地内にもともとあった標高50メートルほどの象山には手を付けずに、象山の北側と南側に建物を集中して配置する。その頃に多く取り壊された昔ながらの中国の建物の屋根瓦や石材などの廃材を建物に埋め込んで再利用。敷地内に溜池や小川、田んぼを残し、田んぼでは近所の農家が耕作する。窓は象山の見え方を意識して設置する。
 
写真をみると建物の屋根は瓦葺で、壁には植物が生い茂り、窓からは象山を望む。山水画に入り込んだようなキャンパスだ。
 
寧波美術館は、使われなくなったフェリーターミナルをリノベーションした建物。外観は杉板で覆われ、下部は再利用された瓦や石材が埋め込まれている。
 
寧波は明の時代の勘合貿易では、日本からの貿易船の受入港となっった土地。杭州紹興も近いので、いつか行ってみたい。蘇州の園林は一度職場の同僚と行ったことがあるが、山水画と王澍さんの建築を想像しながら、もう一度ひとりでじっくり巡ってみたい。