空気感

仕事でいろんな会社を訪問するようになって10年。会社のことは、何はともあれ実際にその会社に行ってみないと本当のところはわからないと、最近つくづく思う。報告書を読んでも、決算書を見ても、新聞記事を見ても、ネットの評判を見ても、伝わってこないことがある。先日も不調が伝えられるとある企業を訪問してきたが、全然大丈夫、2、3年のうちに復活するだろうと思った。

 

社長さんに1時間みっちり話を聞く必要はない。敷地に入って駐車場の車を見る。玄関で守衛さんや受付の人に用件を告げて簡単に言葉を交わす。飾ってある絵や会社のスローガン、製品の展示などを眺める。打ち合わせ場所に案内される時に何人かの従業員と挨拶を交わす。廊下の掲示物や掃除の具合を見る。担当の方を15分くらい話をする。

 

それだけでも、その会社に勢いはあるか、従業員の士気は高いか、なんとなくわかる。ピリピリした雰囲気なのか、和気あいあいとした社風かわかる。ギリギリの判断をするときには、そんな感覚が役に立つ。「あの会社は今は財務状況は悪いけれど、従業員の士気は高いのでなんとかなるだろう。」逆に、「あの会社は業績はいいけれど従業員は疲れ果てて殺伐としているので気をつけたほうがいい。」とか。

 

大事なのは全体として伝わってくる場の空気感だ。それはどんなに言葉を尽くしても伝えきれないけれど、その場に行けばすぐわかるという類いのものだ。

 

意識する、しないに関わらず、その場に立って五感から得る情報と、他人が言葉で切り取った報告から得る情報とには、量に圧倒的な差があるのだろう。報告書には報告書の文脈に沿った情報しか書かれていないし、新聞記事には新聞記事にふさわしい情報しか掲載されない。だからこそ、文脈に沿って効率的な情報の受け渡しができるのだろうけれど、そこからはみ出してしまい汲み取れない情報も当然ある。

 

現場に行ってみないとわからないし、人には会ってみないとわからない。