羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季
著者のジェイムズ・リーバンクスは、1974年に代々続く羊飼いの家に生まれる。幼いころから家で祖父や父親の仕事を手伝いながら、自分も当然羊飼いになるものと思って暮らし、居心地が悪かった学校は高校の途中で行くのをやめてしまう。しかし、青年期特有の全能感が邪魔をして、仕事の方針を巡って父親と激しく対立するようになり家を飛びだす。で、しばらく勉強して行った先がオックスフォード大学。時々家の羊飼いの仕事を手伝いながら大学を卒業する。
卒業して家業をついでずっと羊飼いとして暮らす。そんな著者が羊飼いの暮らしを、四季の移り変わりに合わせて綴る。イギリスの湖水地方というと、牧草に覆われたなだらかな山肌、そこで羊がのんびりと草を食む。そんなのどかな光景を思い浮かべるが、現実は厳しい。
1年のうち8ヶ月は雨、雪の悪天候が続く。春、暖かくなると羊の出産シーズンになり、広い牧場を四輪バギーで走り回って子羊の面倒を見なくてはいけない。夏はわずかな晴れ間を狙って冬用の干し草作り。刈った草を2、、3日干さないと干し草にならず腐ってしまうので、タイミングをはかって一気に仕事をしなければいけない。毎日休みなしに働いても、羊の値段は安く、暮らしは楽にならない。副業をしなければ牧場を維持できない。湖水地方の観光地としてのイメージが世の中に広まって、金持ちが別荘地として牧場を購入するして勝手なことばかり言う。
生まれた直後に子羊が死んでしまうと、羊飼いはその子羊の皮を丸ごと剥ぐそうだ。母親からはぐれてしまった子羊にその皮をジャケットのように着せて、子どもを失った母ひつじの前に差し出すと、母ひつじはその子を自分の子どもと勘違いして子育てするのだそうだ。
ずっと羊飼いの人は、外の世界から自分の仕事を見るとことはないので、こんな本は書けないし、大学を卒業しても実際に羊を飼っていないことにはこんな本は書けない。羊飼いがたまたま大学に行ったから生まれた本だ。
著者のツイッター(@herdyshepherd)で牧場の写真や動画をたくさん見れるので、それを見ながら読むと楽しいです。