ヒトラー(下)1936-1945 天罰

下巻は1936年のラインラント侵攻から1945年のヒトラーの自殺まで、怒涛の9年間です。

 

ヒトラーユダヤ人を差別しヨーロッパから追い出そうと呼びかける演説の表現がえぐい。ユダヤ人を害虫や病原菌に例え、ユダヤ人をヨーロッパから抹殺しないと自分たちが滅ぼされると言う。しかしヒトラー自身がユダヤ人に対してどうしろ、こうしろとは言わない。ひたすら憎悪の感情を煽り立てる。後は、ヒトラーの為に働きたいナチス党員たちがユダヤ人に暴力を振るったり商店を略奪したりと実際に手を下す。

 

ヒトラーは、イギリスやアメリカの金融資本も、ソ連ボルシェビキユダヤ人が操っていると言う。第2次世界大戦が始まるとドイツ国内やヨーロッパの占領地域のユダヤ人が内側から国を蝕むからと、ユダヤ人を排除しようとする。最初はマダガスカルやシベリアへ追放すると言っていたが、現実にできそうもないとなると、特にユダヤ人がたくさん住んでいたポーランドを中心に収容所を作る。これも、ヒトラーは演説で憎悪の気持ちを煽るだけで、直接指示しない。部下たちがヒトラーの意図を忖度して実現する。

 

怖いのは、ヒトラーの突出した残忍さではない。憎悪の感情が普通の人にいともたやすく受け入れられ、強制収容所での虐殺にまで行き着いてしまったことだ。

 

上下巻合わせて1800ページ、1990年以降に公開された資料に基づく、ヒトラーの伝記。読み応えあります。

ヒトラー(下):1936-1945 天罰

ヒトラー(下):1936-1945 天罰