休戦

プリーモ・レーヴィはイタリア在住のユダヤ人。ナチスに逮捕されアウシュヴィッツに送られる。アウシュヴィッツでの約1年間の暮らしを扱ったのが「これが人間か」。

 

「休戦」はソ連軍によってアウシュビッツが解放されてからレーヴィがイタリアに帰郷するまでの紆余曲折を綴る。すぐにイタリアに戻れたわけでなくポーランドウクライナベラルーシの収容所を転々とさせられ約9ヶ月後にようやくイタリアに到着するのだ。

 

その間に、強制収用所で破壊された人間性を少しづつ取り戻して行く。 著者は、ドイツ人の時計のように精密な管理体制に比べて、ソ連軍の大陸的なというか、おおらかな、いい加減なやり方に好感を持つ。ベラルーシの平原のど真ん中の収容所で、ソ連軍の帰還兵たちがドイツから膨大な数の馬を引き連れて帰ってくるところに出会う。ソ連軍は誰も正確な馬の数など把握していないので、収容所の住人たちは、こっそりと馬を森に引き込んで殺して肉を分け合って食べてしまう。看守たちも半ば見て見ぬ振り。レーヴィは馬肉のおかげで精神も肉体も強制収用所のダメージから回復できたという。

 

「これが人間か」と同様に、形容詞や感情を表す言葉を省き、事実を淡々と紡いて行く表現は、一見明るい。しかし底知れぬ凄みを感じる。

 

休戦 (岩波文庫)

休戦 (岩波文庫)